image

 

“バツイチ”ならぬ“没イチ”という言葉をご存じだろうか。その意味は、配偶者に先立たれ、単身になった人のこと。そして、2年前、同じ境遇の没イチ同士が集まり、明るく笑顔で交流を深める「没イチの会」が結成された。現在はテレビでも特集が組まれるなど、話題を呼んでいる。

 

「65歳以上の没イチの数を見ると、女性は約720万人もいるんです。そんなに多いなら、“没イチ”同士をつなげたい。そう思って、定期的に飲み会を開催し、亡くなった配偶者のぶんも楽しむことができる会を作りました」

 

そう語るのは、発起人の第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部の小谷みどりさん(48)。彼女は、50歳以上のシニアを対象に再チャレンジをサポートする、立教セカンドステージ大学で“死生学”を教える講師だ。’15年6月、同大学で小谷さんの講座を受講する生徒やOB、OGの中で、配偶者を亡くした7人で発足したのが「没イチの会」。現在、小谷さんのほか、50〜70代のメンバーが11人(男性6人、女性5人)いる。

 

「私自身も、6年前に夫と死別しています。伴侶がいれば、どちらかが先に亡くなります。つまり、残された方は必ず“没イチ”になるわけです。ところが、死別した人に対してかわいそうという世間の目がずっと付きまとう。この偏見を変えていきたいとずっと思っていました」(小谷さん)

 

では、没イチの会ではどんな会話で盛り上がっているのだろうか。本誌は、同会員にも話を聞くことができた。

 

「死別した伴侶のことを、普通の知り合いや仲間同士の飲み会ではなかなか話せない。相手も聞きたくないだろうし、話せば暗い雰囲気になったりもします。でも『没イチの会』は、みんな同じ境遇なので、“いきなり宗教勧誘が来るようになったよね(笑)”“私はお墓と相続問題はこうやって解決した!”と、それぞれが体験したことを“あるある”として違和感なく話すことができる。そこが普通の飲み会とは大きく違うところでしょうか」

 

こう語るのは、7年前、妻の和子さん(享年62)を肝臓の病気で亡くした池内章さん(62)。現在、「没イチの会」で幹事を務め、3〜4カ月に1回のペースで飲み会を開催。そこで死別した妻や夫の話だけではなく、それぞれが近況報告を楽しんでいるという。

 

「メンバーの中には、現在博士号を取るために大学のオープンカレッジに通う77歳の男性もいたりするんです。自分自身が刺激を受けることも多いですね。没イチの人たちが、どんどん前向きに生きている姿を見ると、暗くなっている暇などないなぁ、と」(池内さん)

 

11年前、13歳年上の夫・靖幸さん(享年62)を胃がんで亡くした、矢島元子さん(59)も、「没イチの会」に入って元気を取り戻した1人だ。

 

「夫が亡くなった当時、私は48歳。喪失感と共にこれからどう生きていこうかと、すべてをもぎ取られたような不安感に襲われ、自殺も考えました。数年間は何をやっても面白くない時期が続きましたね」(矢島さん)

 

矢島さんは、がんの遺族会のようなシンポジウムにも参加したが、悲しい話ばかりを共有する感じがして、前向きになれなかったという。

 

「数年後、このままではいけないと思い、積極的に趣味をやっていこうと考え、徐々にお茶の稽古などに通うようになりました」(矢島さん)

 

そして2年前に、矢島さんは没イチの会の発足メンバーとして参加するようになる。

 

「没イチの会のようなサークルが全国に広がれば、没イチ同士での再婚も増えるかもしれません。ただ、お互い年齢も重ねているでしょうから、財産があったりすると、いろいろ問題が出てくるかもしれないので、“通い婚”がいいかもしれないですね(笑)」

 

同じ境遇であればあるほど、気も許せるようになり、明るく笑って何でも話せるもの。彼らは、そんな仲間を得て、前向きな“没イチライフ”を送っているようだ。

関連カテゴリー:
関連タグ: