東京・吉祥寺に「人生を変える沖縄料理店」がある。その店には、多くの人々の相談に乗っている占い師や、他人を癒しているヒーラーなど、俗に「スピリチュアリスト」と呼ばれる人たちが、全国から集まってくるという。

 

「ママに心身の凝りを解いてもらえたようでした。歩くこともままならないほどの足の痛みが、スーッと引いて、かたくなになっていた心まで、解きほぐしてもらえた気がします」

 

そう語るのは、生年月日や方位から運勢を占う方鑑術の鑑定アドバイザーを10年以上続けている加藤純子さん。これまでたくさんの人たちの相談を受け、悩みを解決してきた加藤さんですら「ママのすごい力に感動した」という。また、ママのことを「龍神」と呼んだスピリチュアリストもいた。

 

「私が龍神?ハハハ、それはわからないけど、よく男と間違われることはある。でも、こう見えて旦那さんもいるし子供も産んでる。れっきとした女性だよ(笑)」

 

ママはそう言って豪快に笑う。店の名は「琉球」。この夏、開店25周年を迎えた“老舗”沖縄料理店だ。「照れくさいから本名は内緒」だそう。幼いころから勘は鋭く「霊感も強かった」というが、霊的なものへの関心はまったくなかった。そんな彼女がなぜ、スピリチュアリストが集う店のママになったのか。

 

’80年にママが結婚した相手、現在のご主人は、かつて琉球王国の王府があった首里の出身。そして、祖母の代まで彼の実家は代々、王府の料理人を務めるかたわら神事をつかさどる神人(かみんちゅ)の家系でもあった。

 

「うちの旦那さんとの出会いがきっかけだね。旦那さんは幼いころから、オバアの台所仕事を間近で見て王朝料理の調理の仕方や味を覚えたし、神事のしきたりも心得ていたの」(ママ・以下同)

 

結婚から数年後。ご主人の手料理を初めて食べた。ママいわく「その瞬間、私は神がかった」と言う。

 

「一口食べて、あまりのおいしさにビックリしてね。滝に打たれたり、生死の境をさまよったりするだけが、神様とつながるきっかけじゃないのよ。『こんなおいしいもの、独り占めしたら罰が当たる、皆に食べさせたい』。そう心から思ったとき、同時になぜか私の心には、病気の人たちを治してあげたい、という思いが浮かんだんだけどね。他人のことを心底、真剣に思うこと=神様の心だからさ。私はその瞬間に、神様とつながって、神がかったんだと確信している。その証拠に、それから私は、顔つきがどんどん変わっちゃったんだから」

 

’89年、ご主人と「琉球」を開店。それから25年。いまでは、ご主人の味をしっかりと受け継いだママが、店のすべてを取り仕切るようになった。1人で店に立つようになったころ。ママは店に来た客の体調やその背景が、手に取るようにわかるようになる。体調が悪い客が来ると、ママは瞬時に患部を言い当てた。

 

さらに、その客の体調を回復させる料理が、直感的に思い浮かぶようにも。いつしか店には、ママの直感から導き出される言葉を聞きたい客や、ママの手料理でエネルギーを得たいという客たちで、あふれるようになっていた。客の多くが異口同音に話すのは「ママの料理はおいしいうえに、特別な力がもらえる」ということ。

 

「沖縄にはね、手油(てぃーあんだー)っていう言葉があるの。食べる人のことを心から思って、一生懸命、手間を惜しまず作った料理には、この手油も入ってるからおいしくなるっていうんだけどね。もし私の料理に何か入ってるとすれば、それだけよ。私が自分の手で、それぞれのお客さんに、いまいちばん食べてほしいものを真剣に考えて愛情込めて作る。そうすることで、もしかしたら、私の手油を介して、神様の心や、神様の力が、料理にも込められているのかもしれないね」

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