子どもの無駄遣いをやめさせたい。夫に少しでも家事を手伝わせたい。そう思って説得しても、徒労に終わってがっかりした経験はないだろうか。
「相手にとって興味のない話やメリットのないことは、いくら正論をぶつけたところで聞いてもらえません。でも、ちょっとしたコツさえつかめば、話を聞いてもらえるだけでなく、相手を動かすこともできるんです」
そう話すのは、元駿台予備学校カリスマ講師で、現在、塾経営をする傍ら、東京大学大学院にて「学習環境」をテーマに研究を行う犬塚壮志さん。予備校講師時代は、化学を担当。いかにわかりやすく説明するかを追求した講座は生徒から絶大な人気を集め、3,000人以上を集客した。
「難解なことを難解なまま説明しても、理解してもらえない。そこで、生徒に興味を持ってもらい、段階を踏んで理解してもらう説明の“型”を考えたんです」(犬塚さん・以下同)
それが、犬塚さんが提唱する「IKPOLET(イクポレット)法」だ。IKPOLETのアルファベットは、次の7つのステップの頭文字を表している。
□Interest(興味を引く)
□Knowledge(聴き手の知識にアクセス)
□Purpose(目的を示す)
□Outline(大枠を見せる)
□Link(つなげる)
□Evidence(証拠を示す)
□Transfer(転移)
「いわば“理解の階段”。こちらが階段を作ってあげれば、相手は上ってくることができる。つまり、どんな話でもわかってもらうことができるのです」
今月4年、このノウハウを紹介した書籍『東大院生が開発! 頭のいい説明は型で決まる』(PHP研究所)を出版すると、瞬く間に広い層から支持を集め、ベストセラーとなった。
一見、難しそうに見えるが、このステップの一部を利用すれば、冒頭に紹介したような日常生活の悩みも解決に導けるという。犬塚さんの読者から寄せられた悩みを例に、実践方法を学んでみよう!
【 ケース(1)】
「年をとるほど頑固になる父に困っています。『遠方に住んでいる弟に会いに行きたい』と自分で言っておきながら『じゃあいつにする?』と聞くと、途端に『あいつは忙しいから今はやめたほうがいい』など会わない理由を並べて、結局何もせず。高齢なので、まだ元気なうちに旅行がてら叔父のところに遊びに行ってほしいんです」(40歳・女性・会社員)
動かない人には、今すぐ動かなければいけない理由を提示しよう。
「あらかじめ叔父さまと打ち合わせしておき『叔父さんが、お父さんと会って話したがっている』とほのめかし、まずは興味を引きます(ステップI)。次になぜ実際に会う必要があるのか、目的を示します(ステップP)。『電話で済ませたくない大切な話がある』と打ち明けてみましょう」
たとえば、田舎の実家やお墓の管理など、自分にも関わりのある話だとそれとなくにおわせてみる。
「仕上げに、『どうしてもお父さんに相談しないと決められないんだって』と、つながりを強調(ステップL)。自分と関係があることには、人は自然と関心を示すもの。本人との因果関係を伝えながら、詳しい内容は言わないのがポイントです。こうなると、お父さまは話が気になり、叔父さまと会う段取りをつけるはず。実際に会ってしまえば、兄弟の仲ですから小さな話でも構わないでしょう」
IKPOLET法を日常生活に応用する場合は、最初にどう興味を引くかが肝心だ。夫に家事を手伝ってもらいたい場合も、それとなくご褒美で気を引いて、家事を手伝うことがトクだと思わせるのがポイント。
「人間は感情で動く生き物。正論をぶつける前に、相手の感情に訴えて話を聞いてもらう準備を整えましょう」