『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(文響社)など、大人向けの教養書籍が盛況だ。特にビジネスマンなどには「哲学」や「歴史」の学び直しのニーズが高く、入門書形式の関連書籍が数多く出版されている。
でも、実際のところ教養って必要なの? 知って役立つの? そんな素朴なギモンをプロの方に聞いてみた。
答えてくれたのは中国歴史小説『賢帝と逆臣と』(講談社文庫)や『劉裕 豪剣の皇帝』(講談社)、『世界史をつくった最強の300人』(光文社知恵の森文庫)などの著書を持つ歴史小説家の小前亮氏だ。
■教養として歴史を学ぶことに、どんな意味があるのか?
教養を学び身に着けることにどんな意味があるのか? 歴史小説家の立場から、教養としての“歴史”について考えてみたいと思います。
私は『世界史をつくった最強の300人』(光文社知恵の森文庫)という書籍で、紀元前7世紀より前から現代までの偉人を紹介しました。クフ王からヒトラーまで全324人。選考基準は個性やアクの強さ、独特の業績……、要はキャラの濃さです。手前みそですが、こういった“広く浅く”歴史に触れる本を一冊読んでいただけると、あることに気づかれるでしょう。
歴史は繰り返す、ということです。
■未来に生かすか、学んだって仕方がないと考えるか?
歴史は繰り返す。
農民反乱で建てられた国はすぐに滅びるし、革命は成功した瞬間から仲間割れがはじまるし、粛清するのは成りあがり者だし、名君でありつづけるのは至難の業です。
この前提からは相反するふたつの結論が導けます。すなわち、繰り返すのだから、歴史を学んで未来に生かさなければならない。いや、どうせ繰り返すのだから、学んだって仕方ない。
性格の悪い人は言うでしょう。
「歴史を学ぶのは、繰り返したときに、『やっぱり』って言うためだ」
しかし、それでは身も蓋もないので、少しまじめに主張してみましょう。歴史を学んでも役に立たない、などということになったら、私も困りますから。
■歴史とは、人間の心理や行動のパターンの蓄積
まず、単純な知識として、基本的な歴史、とくに日本史は押さえておきたいものです。
しかし、教養と言ったとき、それは単なる知識にとどまりません。教養は思考のための土台であり、換言すれば、考える力です。いまでは少なくなってしまいましたが、大学によっては専門に進む前に教養課程をおいています。それは、専門分野を深く学ぶ前に、土台を固めるためです。
この点に立つと、歴史はまさに必須の教養といえます。歴史は人類の営みの蓄積であって、人間の心理や行動のパターン、社会のあり方やその変遷を鮮やかに示しています。現代の経済や社会問題、あるいは個人の人生を考えるうえで、歴史という土台があるかないかは、大きなちがいになります。
■教養とは、あくまでも思考のための“土台”
たとえば、エジプトの民主化運動のニュースを見たとき、古代エジプトからはじまってローマ時代、イスラーム時代を経て、ナセルにいたる歴史の流れを知っていれば、受けとる印象がちがってくるでしょう。また、現代の欧米中心の世界が、ほんの二百年ほどしかつづいていないことを知れば、より相対的な見方ができるようになるでしょう。
教養として歴史を知ることの効果として、このような相対的なモノの見方ができるようになることが、挙げられましょう。
ただし、心得ておくべきは、教養はあくまで土台なので、それをもとに思考を積みあげなければ意味がないということです。歴史も役立てようと思ったら、知っているだけではなくて、考えなければなりません。
……と、書きながら、私はお酒の効能を主張しているような気持ちになっています。お酒の効能というのはたいてい言い訳であって、酒飲みは飲みたいから飲むものです。
今は教養本ブームとのことで、この機により多くの方に歴史の面白さを知ってもらいたいと思います。同時に、結局、歴史は楽しんでほしいのです。そのうえで、役に立ったら……歴史小説家としては、それが何よりの喜びです。
※この記事は『世界史をつくった最強の300人』より一部を抜粋して作成しました。
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『世界史をつくった最強の300人』
(小前亮/光文社・知恵の森文庫)
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