認知症時代の備えに…「家族信託」、成年後見制度との違い

夫に先立たれてから1人で都内の一軒家に暮らすAさん(80)は、最近物忘れが激しくなった。あるとき預金通帳をなくしてしまったため、近所の銀行に出向いたとき「もしも、自分が認知症になったら、銀行に預けている自分のお金はどうなるのか」と、担当者に聞いてみたら、驚愕の事実を教えられたという。

 

「判断能力が低下して『意思疎通ができない』と判断されますと、銀行の口座は凍結されてしまうと聞き、慌ててしまいました。銀行の担当者の人から『ご自身に後見人をつけてください』と言われてしまいましたが、何のことかさっぱりわからず……」(A子さん)

 

2025年には、認知症になる人が700万人にもなるという(厚生労働省調べ)。認知症の本人に代わって、家族が銀行から預金を引き出そうとしてもストップがかかり、生活費や介護などのお金は家族が肩代わりすることになるのだ。

 

「キャッシュカードの暗証番号を知っていれば、ひとまずお金の出し入れはできますが、本人から事前に了承を得ていなければなりません。しかし、通常50万円以上のまとまったお金を引き出そうとすると窓口に行かなければならず、そこで本人の同意が確認できないと、銀行の口座は凍結されてしまい、お金は引き出せなくなります。定期預金の解約をしたくても、できなくなります」

 

そう注意をうながすのは、相続・終活コンサルタントの明石久美さん。口座が凍結されると、生活費などのお金を家族が本人に代わって支払うことになるため、負担した家族の生活が行き詰ってしまう――。

 

そんな事態を防ぐ方法の1つとして最近注目を集めているのが、’07年に信託法が改正されて、個人でも利用しやすくなった「家族信託」だ。認知症による資産の凍結から財産を守る制度は、「法定後見」「任意後見」の成年後見制度と、「家族信託」の3つがある。

 

「成年後見制度は、判断能力が低下したときに4親等内の親族や市区町村長からの申し立てにより、家庭裁判所が後見人を選ぶ『法定後見』と、本人の判断能力があるうちに、あらかじめ選んだ後見人と公正証書で契約をしておき、判断能力が低下したときにスタートする『任意後見』があります。一方、『家族信託』は、本人の判断能力が低下する前に、信頼できる家族に財産の管理や処分をしてもらう制度です」(明石さん・以下同)

 

財産のなかで、家族信託を使って管理したい財産を「信託財産」といい、主に現金、不動産、未上場株式の3つが対象になる。

 

財産を預けたい親が「委託者」になり、財産を預かり管理や処分をする子どもが「受託者」、財産から得られる利益を受け取れる親、またはほかの家族が「受益者」となり、委託者と受託者が書面を交わす。

 

成年後見制度と違って、家庭裁判所に提出する書類がないので、財産の管理がしやすい。家族信託契約書を作成してもらう専門家への報酬はかかるが、後見がスタートしてから本人が亡くなるまで毎月、数万円かかる後見人や後見監督人への報酬の支払いが必要ない、といったメリットがある。

 

認知症になっても自分や家族が安心して暮らせるように、さらに、死んだ後も自分の財産を自分の思いどおりに親族に渡すことができるように、家族信託を選択する人が増えてきたという。

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