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丸くてふわふわのジャイアントパンダ。コロコロと遊びまわり、一生懸命に竹をかじる愛らしさが魅力的だ。なかでも、上野生まれのシャンシャン(3)は日本中で話題に。奇跡的な確率の自然交配で生まれ、すくすく育ち、毎日、私たちにとびっきりかわいい姿を振りまいてくれた。

 

来年5月末、数が少ないパンダの繁殖のためにも中国に返還されるシャンシャン。パンダの未来を背中に背負い、新たな旅に出るのだ。

 

シャンシャンは、上野動物園の「奇跡の子」だ。自然交配で誕生し、立派に成長した上野動物園では初めてのパンダなのだ。ほかにも上野生まれのパンダはいるが、トントン(86~97年)もユウユウ(88年~、92年中国へ)も、人工授精で生まれた。シャンシャンの両親、シンシンとリーリーの第1子は自然交配だったが、生後6日で命が尽きた。それだけパンダの繁殖と飼育は難しい。

 

元上野動物園園長で、現在は日本パンダ保護協会の会長を務める土居利光さんに、シャンシャンの誕生から振り返ってもらった。

 

土居さんは、

 

「まず、日本ではワンペアで飼育するでしょ。その相性がよくないと、ペアリングしないんです。だから、リーリーとシンシンは相性がいいんだと思います。それからメスの発情期が非常に短いんですね。1年のうちの2週間くらいですが、交尾してちゃんと受精がうまくいく発情のピークは、1~3日しかないんです」

 

自然界では、メスの発情の匂いでオスが何頭も集まってきて、そのなかからメスに選ばれた相性のいいオスが交尾する。ところが、飼育下のパンダは1頭ずつ別々に飼われているため、発情のタイミングをみて、人間が会わせなければならないのだ。

 

「パンダは単独行動の動物で、それぞれ自分のテリトリーがあるので、発情していない時期に会わせるとけんかしちゃうんですよ。だから、長くて3日しかないメスのピーク時を見極め、2頭を会わせなくちゃならない。これが難しい」

 

発情期になると、2頭で交互に鳴き交わしをする。

 

「メーッて、甘えたような声で、交互に鳴き交わします。それに合わせて、扉を開閉させて2頭を徐々に近づけていきます。飼育員がメスのお尻を棒でつついて、尻尾を上げる行動が見られたら、それが交尾のタイミングです」

 

交尾ができても、妊娠しているかどうか、パンダの場合は非常にわかりにくいという。

 

「“着床遅延”といって、受精卵ができても、浮遊していてすぐに着床しないんです。だから、いつ子が生まれるのかわからない。もう1つは“偽妊娠”。妊娠していなくても、乳首が張ったり、巣作りしたがったりと、妊娠したような行動をとることがある。この2つの理由で、生まれる時期がはっきりしないんです」

 

生まれてからも大変だ。

 

「子どもは10~15cmととても小さく、丸裸に近い状態で生まれてくる。最初の3日は母親が24時間、抱いて温めてやらないといけないし、事故も起きやすいんです」

 

実際、第1子出産後のシンシンは、エサに気を取られて、生後2日の赤ちゃんを床に落としてしまった。飼育員がすぐに気づいて、保育器に移したが、赤ちゃんは肺炎を起こして死んでしまった。そもそも100kg以上ある母パンダが、150gに満たない赤ちゃんを抱きかかえるのは困難だ。育児慣れしていない初産のパンダにはこうした事故が起きやすい。

 

「上野では、飼育放棄が起きない限り、子育ては基本的に母親に任せます。子パンダは母親からパンダ同士のコミュニケーションを学んでいく。人間が介在することで、大きくなったときに、仲間とコミュニケーションが取れないと困るでしょう? とはいえ、生後3カ月は病気や事故になりやすいので飼育員も24時間ずっと、つきっきりです。母親に横から水を補給したり、栄養剤をあげたりしているはずです」

 

土居さんは、第1子が亡くなったときの園長でもある。

 

「がっかりしましたね。生まれて1時間、3日、1週間と、節目節目を乗り越えなくちゃならないんですが……」

 

わが子を亡くしたショックもあったのか、その後のシンシンは、偽妊娠はあったものの、発情の兆候を見せなかった。ようやくシャンシャンを授かったのは、第1子の死から5年後のことだ。

 

「最初の子はあまり強い子じゃなかったのかもしれません。体重もあまり増えず、ゆっくりと増えていった個体でしたし。その点、シャンシャンは体重が順調に増えて、問題ないなと思いました」

 

元気に育ち、愛らしい姿を惜しみなく見せてくれたシャンシャン。あと5か月で新天地に旅立つ上野のアイドルに、「ありがとう」と「頑張れ」を伝えたい。

 

「女性自身」2021年1月5日・12日合併号 掲載

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