■マイペースだから死に際も自然に
ネコは生き方と同様、死に際もマイペース。老いて「体が思うように動かない」と感じても、ネコ自身はその日、その時を生きるのみ。過去という概念はなく、「昔は体も軽くてよかったな」などと悔やむ気持ちもなさそうだ。
「こみみは、本格的に食が細くなったり水を飲まなくなったりしてから数日で亡くなったため、特別な介護はほとんど必要ありませんでした」
一方で、こみみちゃんが諏訪家に仲間入りしたとき、すでにここに暮らしていた先輩ネコがおり、その最期が壮絶だったという。
「異変に気づいた妻が動物病院に連れて行ったところ、悪性腫瘍が発見され開腹手術をしましたが、手をつけられる段階ではありませんでした。急にネコの死が目前にあることを知った私たちには、覚悟ができていなかったのでしょう、家に酸素発生装置を持ち込み、手作りの無菌室をしつらえ、徹底的に死を遠ざけようとしたのです。子ネコのときからなでてきた小さな頭には、医療器具のチューブが外れないよう固定するために縫い付けられた糸……。『胸が痛む』という表現が、本当にそう感じるものなのだと思い知らされるとともに、人ができることの限界を感じました。そうまでして抗っても、病気の進行を止めることはできなかったのですから」
この先輩ネコの看取りから学び、こみみちゃんの終末期は、苦痛を取り除くための努力はしつつも、自然な死を迎えさせることにした。ネコときょうだいのように育った小学生の息子が「はじめて他者のために涙を流した」というほど家族は悲しみに包まれたが、看取りについての後悔はない。
■生まれ持った体質も寿命を左右する
高齢ネコは毛のツヤが失われ、毛が束になる「毛割れ」が起きがちだが、こみみちゃんは最期までツヤツヤだったという。どうやら、生まれ持った体質にも恵まれていたようだ。
「こみみと出会った日、拾って帰ってすぐにお風呂に入れました。くしでネコノミを数えながら駆除したら、260匹もくいついていて、こんな小さな体に……(笑)と驚かされました。たまに鼻ちょうちんを出していたこともあったし、ワクチンを打つために動物病院へ連れて行ったところ、獣医さんに『この子はいいネコだからここで飼ってもいい』と言われたんです。健康そうにも見えなかったので、当時、この発言は謎だったのですが、さすがは獣医さん、何かを見抜いていたのかもしれませんね」