若い人の間で、友達のような「共生婚」「別居婚」「週末婚」など、婚姻関係が多様化していると耳にするが、それは熟年層にも広がりを見せている。長年一緒に暮らしたからこそ見えてくる、夫婦の新しいカタチとはーー。
「50~60歳というのは、子育ても終え、次のステージに向けて立ち止まる人が多い時期。もちろん不倫問題もありますが、それも含めてあらためて夫との関係を見直した結果、離婚を選択する女性が増えるようです」
かがりび綜合法律事務所の野条健人弁護士。
「熟年離婚」という言葉が流行語になり、いわゆる老後を前にした夫婦関係のあり方に注目が集まったのは、かれこれ15年ほど前になるだろうか。近年、そのあり方はさらに細分化し、今までとは違った婚姻のカタチを模索するケースが増えているという。
2年前に「夫源病」と診断され、最近のテレビ番組で「卒婚している」と語った上沼恵美子さんもそのひとりだ。「卒婚」とは、婚姻関係は続けつつ、夫婦が互いに干渉することなく、個々の人生を歩んでいくカタチのこと。
上沼さんは「私は本宅に、夫は同じ市内のマンションに住み、週に2回、食事をしに来る。結婚というのは同じ電車に乗ったということ。新婚のときはお互いを見つめているが、そのうち違う景色を見始め、さらに好きなことをし始めるが、それでいい。でも、同じ列車」という趣旨の発言をした。
また、将来的に離婚を視野に入れ、そこに向けてお互いが準備をしている「エア離婚」というカタチを発表して話題になったのは、小島慶子さんだ。夫に「こんな人とは老後を過ごせない」と告げたなど、赤裸々な告白に驚いた人も多いだろうが、準備期間があるのは、お互いに利点が多そうだ。
今回、離婚はせずに別居というカタチを選んだ2人の女性に話を聞いた。経緯は異なるが、共通するのは、夫婦ともにストレスのない毎日を手に入れたこと。
【実例1】掃除、洗濯、朝食、買い物は別。夕飯と晩酌、スポーツジム通いは一緒にというカタチ(奥田ひろみさん・61歳)
食品関係の仕事を続けている奥田ひろみさん(仮名)。現在も大手建設会社に勤める夫は大学の同級生で、別居のきっかけは10年ほど前、義父の他界だったと話す。
「義父母の家を処分し、義母は私たち夫婦と同じマンションに部屋を借りることにしたんです。近いとはいえ、ひとり暮らしをさせるのは不安だったので、夫と義母、私と娘がそれぞれ同じ部屋に暮らすというスタイルになりました。いわゆる“スープの冷めない距離”ですね。姑も私も余計な気をつかわずにすむし、義母も久しぶりの息子との暮らしが楽しかったようで、いい選択でした」
その後、昨年になって義母は施設に入居したが、そのまま夫婦の別居は続けている。掃除、洗濯、朝食、買い物は別々で、夕食と晩酌、スポーツジム通いは一緒なのだという。
「トイレや洗面所の使い方、いびき、日常生活の音など、些細だけど気になることってありますよね。それに、私たちは互いに仕事があって、生活パターンも違うので、合わせるのが大変でした。そのストレスがなくなると、穏やかに接することができ、ケンカが減りました。不穏な空気が流れても、別室に移動すれば長引かないし。コロナ禍による自粛期間中は、その効果は絶大でしたね。夫は単身赴任の経験があるので、身のまわりのことをすることに抵抗がないという部分はありますが、夫は夫で、妻につべこべ言われずに、好きなテレビを見て、好きな時間に寝て、自由に過ごせるので喜んでいます。このスタイルがベスト。ずっと仲のいい、友達みたいな夫婦でいられるような気がします」
【実例2】きっかけは夫の不倫。家庭内別居を経て今は遠距離で暮らすというカタチ(米山都さん・61歳)
すでにひとり息子が独立し、お互い、気ままなひとり暮らしを満喫する米山さん夫婦。都さん(仮名)が夫名義の家に住み、夫は故郷に戻りアパートを借りている。
「発端は夫の不倫でした。昔から女性に対して腰が軽く、押しが強い人でしたが、子育て中は私も忙しくて気が回らなかったし、夫もうまく隠していたようなんです。ところが27年前、子育てが一段落したころ、私も知っている女性と不倫関係になって。さすがの私も気づいて問い詰めたところ、なんと、逆ギレして相手をかばう始末。かといって、夫には離婚したいという意思もなく……“謝っては復縁”をくり返したのち、もう限界だ! と離婚を考えるようになりました。何事にも疑心暗鬼になってしまい、自分らしさがなくなっていくのが、何よりつらかったんです」
けれど、調べれば調べるほど離婚はハードルが高く、方向転換。
「リスクも高く、いわゆる別居での『卒婚』を考えるようになりました。何度目かの不倫発覚のときに、今度不倫したら家を出ていく、という念書を書かせてはいたんですが、加えて、夫は故郷が大好きなので、そこで暮らしたら楽しいよ! と、さりげなくアピールし続けたのも功を奏しました。離婚は夫も望んでいなかったので、自然とその気にさせた形です。とはいえ、家は夫名義で、この先の不安は残るので、今はどうやって私名義にするかを勉強中です。夫とは趣味が合い、100%嫌いになったわけではありません。離れて暮らすうちに、負の感情も薄れてきました。でも、あのころには絶対に戻りたくない。今のカタチを手放すつもりはありません」
’20年はコロナ禍により、夫婦関係に新たな気づきがあった人も多いだろう。人生の後半戦をより楽しむために、今一度、婚姻のカタチを見直すいい機会かもしれない。
「女性自身」2021年1月19日・26日合併号 掲載