新型コロナウイルスが世界中で感染拡大を始めてから約1年。日本では昨年4月に最初の緊急事態宣言が発出され、不要不急の外出自粛が呼びかけられると、繁華街や観光地から人が消えた。
その影響を受け、宿泊施設、飲食店、食品卸売業者、生産者など広い業種で売り上げが激減。さらに昨秋の感染拡大の第3波にともないGo To トラベルが一時停止されるなど、苦境に立たされる事業者は増加の一途をたどっている。
こうした状況を背景に、ふるさと納税では被害を受けた自治体や事業者を支援する動きが拡大中。ふるさと納税サイト「さとふる」広報の谷口明香さんはこう話す。
「多くの自治体で行き場を失った商品を『緊急支援品』と銘打ち、値崩れしたぶん増量する、寄付額を低く設定するなどの取り組みを行っています。昨年3月から5月にかけて『応援』『支援』と付く返礼品の登録数が増え、5月にはサイト内での『緊急支援品』の検索数が一気に伸びました。以来、利用者の方の関心も高まっているようです」
昨春、新型コロナによる全国一斉休校の措置がとられると学校給食も停止。感染の懸念から開催を中止する子ども食堂も相次ぎ、その影響は収入に不安を抱える子育て家庭を直撃した。
そんななか、「ふるさとチョイス」を運営する「トラストバンク」が立ち上げたのが、「突然の給食停止で困っているこどもたちに物資を。子育て家庭への支援プロジェクト」だ。
「ふるさと納税の仕組みを使い、自らが返礼品を受け取るのではなく、食や収入に不安のある全国の困窮家庭にお礼の品を送ることができるようにしました。経済的に余裕のない家庭に食品を届ける取り組みをしている『一般社団法人こども宅食応援団』を通して、それぞれの家庭に食品が届く仕組みです」(トラストバンク広報・齋藤萌さん)
プロジェクトのきっかけとなったのは、山形県三川町からの提案。同町のふるさと納税担当の今野徹さんはこう話す。
「お米を返礼品として出している事業者と話をするなかで、困っている子育て家庭への支援として『パックライス』を送ろうという話が出たんです。これまで返礼品として選んでいただいた感謝の気持ちを社会貢献につなげたいという思いもあり、トラストバンクの担当者に相談しました」
その後、北海道猿払村、鹿児島県出水市など複数の自治体がプロジェクトに賛同。現在、参加自治体が提供する米、味噌、レトルト総菜、アイスクリームなどから選んで寄付を行うことができる。
実際に食品を受け取った家庭からは「育ち盛りの3人の子どもに、おいしいお米を食べさせてあげられて満足」「家計がとても助かっている。学用品が高いので、そちらにお金を回すことができてうれしい」などの声が届いている。
まさに、寄付者、返礼品事業者、受け取る家庭の三者が満足できる新しい形のふるさと納税。前出の今野さんは次のように続ける。
「社会を支えているという実感が得られる“三方よし”の寄付ではないでしょうか。ふるさと納税が寄付者の思いを届ける素敵な制度になればいいなと思います」
支援を目的としたふるさと納税は、じつはコロナ禍以前から増えている。近年、毎年のように地震、台風、洪水などの大規模な自然災害が発生し、被害を受ける自治体が後を絶たないが、被災自治体を支援する仕組みが、ふるさと納税にも取り入れられているのだ。
’18年9月の北海道胆振東部地震で最大震度7を記録し、深刻な被害を受けた北海道厚真町の「市原精肉店」では、震災後、観光客が減るなか、ふるさと納税が希望になったという。
「震災発生から1カ月かかって通常の営業状態に戻ったものの、遠方からは現地の状況がわからないため、しばらくは来客数が激減したそうです。そんななか、震災直後からふるさと納税の返礼品としてジンギスカンの注文が急増。『この注文がなかったらどうなっていたかわからない』とお店の方から声が上がっています。ふるさと納税を通じて、返礼品を注文することが、被災時にも地域の産業継続を助けることにつながります。返礼品がきっかけでお店を知り、その後もご縁が続くというケースも実際にあります」(前出・谷口さん)
「女性自身」2021年2月2日号 掲載