夫が定年を迎えたら、そのときに入る退職金で海外旅行をしたい、ブランドもののバッグを買いたいなどと、使い道をあれこれ考えたことはないだろうか?
「多くの人が、『退職金は長年働いた自分へのごほうび』と勘違いしていますが、あくまでも『給料の後払い』です。数千万円という単位で振り込まれた通帳を見ると、豪華な旅行に出かけてしまったり、投資をしてしまったりして、病気や介護が必要なときにお金がない、という話をよく聞きます。定年後にまつわる“勘違い”をなくして、“定年前”の今から夫婦で準備をすれば、安心した生活を送ることができますよ」
そう語るのは経済コラムニストで、著書に『定年前、しなくていい5つのこと「定年の常識」にダマされるな!』(光文社)がある大江英樹さん。大江さんは、自身が大手証券会社に定年まで勤務した経験をもとに、資産運用やライフプランニングに関する講演や執筆活動を行っている。
大江さんが挙げる“定年後の勘違い”が次の「定年後」のマネープランチェックリストだ。
【「定年後」のマネープランチェックリスト】出典/『資産寿命 人生100年時代の「お金の長寿術」』(朝日新聞出版)
□ 夫の定年後は、世界一周旅行にでも行きたい
□ 毎月家計の赤字が出ても、退職金から補てんしよう
□ 退職金を元手に投資デビューを考えている
□ 退職金は、銀行の「退職金運用プラン」に預けよう
□ 退職金を元手に夫婦で店を始めようと思っている
□ ローンの残りはとりあえず退職金で完済しよう
□ 孫のためには出し惜しみせずお金を使うつもりだ
□ お金のかかる趣味も退職金を充てて楽しもう
当てはまる項目が多い人は、いったん老後のプランを考え直したほうがいいという。大きな勘違いさえ避ければ、定年後は過度に悲観的になる必要はないと大江さんは話す。老後の不安をあおる話の誤解を解いていこう。
’19年6月に「老後は2,000万円の預貯金が必要」という数字が話題になったのは記憶に新しい。
「数字は総務省の家計調査がもとになっていて、『高齢夫婦無職世帯』の毎月の赤字額が約5万円、年金で生活する期間が30年だとすると約2,000万円が不足、という話が出ました。しかし、老後に不足する金額は受け取る年金額や生活する環境によって異なります。また、この試算は、貯蓄額が2,500万円ある、という前提。つまり2,000万円足りないのではなく、2,500万円も貯蓄を持っているからこういう生活をしているということなのです」(大江さん・以下同)
その年金についても「年金は破綻する」といった話題が尽きない。
「年金は現役世代がお金を出して一定の年齢以上の高齢者を支えるという仕組みで、“貯蓄”ではなく“保険”です。現役世代の人の年金保険料で、一定以上の人を養うようにします。極端にいうと、現役世代の人がひとりもいなくならない限り、年金が消滅することはありません。『少子高齢化が進むと保険料を支払う人が少なくなり、受け取る人が多くなるため破綻するのではないか?』と言う人もいますが、これも間違い。幅広い世代で年金を負担しようと、国民年金の半分は税金でまかなわれています。しかも、年金の財政が悪化するのを防ぐために制度改正を行い、苦しくなったときに備えて『年金積立金』が200兆円近くあるので、年金不安をあおる話に惑わされる必要はありません」
老後の準備は、毎月誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」で、退職した後に1カ月どれだけの収入があるか、確認することが基本。
「『人生100年というけれど自分はそんなに長生きしない』と思っている人も多いのですが、これも大きな勘違いです。50%の人が生存している年齢をいう『寿命中位数』というデータがあり、今の50歳の男女が現在平均年齢に到達するころ、50%の人が生存している年齢は、なんと男性は90.3歳、女性は97.3歳にもなります。想像以上の長生きに備えてライフプランを設計する必要があります」
また「定年後は10万時間ある」と言われているが、それは現在の平均寿命から割り出した考えで、将来的にはその1.5倍もあるという。老後を快適に過ごすためにも、定年後のプランをしっかりとイメージしておこう。
大江さんによれば、“定年前”の準備は定年のタイミングの5年前には着手しておくことが、快適な老後につながるという。
「女性自身」2021年3月9日号 掲載