「超高齢社会の日本は、年金財政が悪化の一途をたどっています。60歳定年で65歳まで再雇用するシステムの会社は多いのですが、『65歳以降も働き続けたい、働き続けなければいけない』と考える人は多いのではないでしょうか」
こう語るのは、キャリア・アドバイザーの上田信一郎さん。人生100年時代、65歳以降の夫婦2人で暮らす歳月が「30年ある」ことを前提に生活設計する必要があるという。2019年の金融庁の報告書では、平均的な支出の夫婦だと、年金だけでは毎月約5万5千円の赤字となり、老後資金の不足は合計2千万円になると試算された。
「老後を豊かで安心なものにするためには、夫婦ともに長く働くことが欠かせません。さらに、心身ともに健康であるために仕事を通じて社会と接点を持つことは重要です」(上田さん)
仮に65歳から70歳まで働き、夫婦がそれぞれ月7万5千円、合計月15万円を得られたとしたら、老後資金を約1千万円増やし、不足金を半分にできるのだ。
■高齢であることが“強み”になることも
高齢者が仕事を見つけるには、どうすればよいのか?
「まず、『ハローワーク(公共職業安定所)』の存在があります。窓口に行って希望を伝えれば、求人を紹介してくれますし、スマホやパソコンから、年齢や働きたい地域、職種、正社員やパートの区分などを入力して、希望の求人があるか検索できます」(上田さん)
高齢の人に特化したサービスもある。
「市区町村などが主に60歳以上を対象として『シルバー人材センター』を開設しています。地元の企業や団体などからの求人を受け付け、高齢者に仕事を紹介しているのです」(上田さん)
民間でも、シニア人材を紹介するサービスが広がっている。2016年からシニアの転職を扱っているシニアジョブの中島康恵社長は語る。
「企業側に『元気なシニアを求めている』という声が多くなっている一方、シニアの方からは『就職は難しい』という声が出ていました。そのマッチングを行うことにしたのです」
同社へのシニア登録者数はこれまで延べ6万7千人で男女比はほぼ半々だという。
「60歳で会社に再雇用されたものの、収入面などで条件が悪くなり、よりよい条件を求める方がいらっしゃいます。また『退職後の家計を考えると不安だ』という声も、よく聞くようになりました」
2000年の創立で、シニア中心の人材派遣を請け負っている高齢社の村関不三夫社長はこう語る。
「当社の創業者は東京ガスのOBです。定年後に目標を失った人が暇を持て余している様子を見ていたんですね。日本は65歳まではどこの会社も面倒を見ますが、その後どうするかは、男女問わず前もって準備しておかなければいけないんです」
ユニークな社名からもわかるとおり、同社が派遣する人材は「高齢者」。「だからこその強みがあるんです」と村関社長。
「たとえばレンタカー会社の受付け業務は朝が早く、6時前の出勤もあります。ふつうは敬遠されがちな“朝早い仕事”は高齢者にとって“得意な仕事”になるんです」
この仕事の場合、5~11時まで6時間働いても、昼前には仕事が終わるのだ。高齢になってまで、朝から晩まで働きたくないという人も多いだろう。しかし、年金収入に加えて、生活を楽にするための収入が欲しいという人であれば、週に数日働くだけでよい。たとえば、時給1千円で、1日に6時間、週に3日働いた場合、月給は約7万5千円になる。
「週3日勤務の方が、『出社して、若い人と過ごせるから健康でいられる。それが幸せです』とおっしゃっていました。仕事で収入があるから平日の午後に堂々とゴルフに行けるし、孫にお小遣いをあげられるというんです」
■「定年したらそば店を開く」が失敗パターン
もちろん、お金をもらって働くのだから、質の高い仕事が求められる。シニアジョブの中島社長は「自分の能力に対する過信は禁物」だと説明する。
「いちばんよくないのは、『定年したらそば店を開く』といった未経験の業種を夢だけで目指すこと。過去にやってきた職種、業種に関連したものが、もっとも働きやすいことを忘れないでください。給与や条件に多少の不満があっても、1~2年は頑張ってみてください。そうして働いていれば、ご自身の持ち味や人間性が認めてもらえるはず。そのときが、ステップアップのチャンスです」
高齢社の村関社長もこうアドバイスする。
「以前は家族のために働いてきた人も、今後は自分が充実した時間を過ごすために働くという気持ちを持ってみましょう」
豊かで不安のない老後を過ごすために、65歳以降も無理なく働いてみてほしい。