「今朝も、夫の進夫(のぶお)さんが無事にショートステイに行ってくれたから、『女性自身』の取材を受けることができたんです。うれしい」
そう笑顔で語るのは、74歳のときに福岡県久留米市にスパイス専門店「TAKECO1982」を開いた吉山武子さん(80)。著書『80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと』(KADOKAWA)を出版したばかりだ。
武子さんは23歳のときに、自動車部品会社を営んでいた進夫さんと結婚。しばらくは専業主婦だった武子さんだが、スパイスと出合い、魅了され、40歳で移動料理教室の講師となる。以来、スパイス料理専門家として歩むこと40年。その隣には必ず進夫さんが「武子が頑張るならしょうがない」と、見守ってくれていた。
「料理教室を開いた当初はスパイスがぜんぜん売れず、やめようかと思っていました。そんなときに『しょうがなかたい、相手があることやから』と慰めてくれたのも、進夫さんでした」
やがて一般の家庭に出張して開く料理教室が人気になると、地元・久留米はもとより、佐賀県伊万里市や山口県岩国市、そして東京にも出向くように。
「進夫さんは会社の仕事もしながら、スパイスや材料を載せた車を運転して、いつも一緒に出かけてくれました。私が教室で教えている間は、近くを散策したり温泉に入ったりして待っているんです」
進夫さんのアイデアでヒット商品が生まれたこともある。当時、教室で使うスパイスは、ガラムマサラやターメリックといった5種類ほどをそれぞれ小袋に入れて、セット販売していた。
「でも生徒さんから『(小袋から)1つずつ計量して使うのは、せからしかー(面倒くさい)』と。そのことを夫に言うと、『それなら計量したものをブレンドして、1つの袋に入れて売ればいい。僕がブレンドしようか』って」
進夫さんは仕事の合間を縫い、武子さんのために、スパイスをせっせとブレンドしていった。
「こうして生まれたのが、いまも名前を変えて売っている『吉山式カレー粉』です。できあがったときには進夫さんの顔がスパイスで黄色くなっていました(笑)」
このカレー粉も後押しして料理教室は評判を呼び、自宅でも開催するように。夫婦二人三脚の“スパイス人生”は順風満帆だった。