48年間にわたりCMを提供してきた東芝のスポンサー降板、現代社会とのギャップ……。’69年10月にスタートし、日曜夜の顔として半世紀近く愛されているアニメ『サザエさん』(フジテレビ系)が苦境に立たされている。
そんな“磯野家の危機”を救うため、本誌では、『サザエさん」のイマドキの楽しみ方を集めてみた。
■コミュニケーション能力を高めるビジネスツールに
「『サザエさん』を見ているだけで、コミュニケーション能力が身につくのです」
こう話すのは、コラムニストのペリー荻野さん。
「今は人付き合いを苦手にする若者が増えたり、ひと言も言葉を交わさずに買い物ができたりする時代。職場では、コミュニケーション能力の高さが求められています。『サザエさん』には、カツオと“裏のおじいさんやおばあさん”とのやり取り、マスオさんとアナゴさんとの交流、サザエさんと三河屋の三郎さんや隣に住む伊佐坂先生とのおしゃべりなど、多くの会話が出てきます。そこには近所の人や目上の人とどう接すればいいか、さらには会社での人付き合いなど、コミュニケーション能力を向上させてくれるヒントが満載なのです」
ペリーさんは「『サザエさん』に秘められた“コミュニケーション向上テク”は、ほかにもある」と続ける。
「あれだけの国民的アニメを一度も見ないで育ったという人は皆無に近いでしょう。それは幅広い年齢層で共有できるということ。世代によって異なる価値観があるなか『サザエさん』というテーマならば、老若男女が分け隔てなく話すことができます。『サザエさん』には、各年代の年齢にあったキャラクターがあり、誰もが共感しやすい。職場における世代間の隙間を埋め、潤滑油になる、貴重な番組なのです」
■磯野家の日常を覗き見て自律神経を整える
第1回の放映から欠かさずに見ているという上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、『サザエさん』で毎週、癒されているという。
「初回の放映時に、中学生だった私は、カツオの目線で見ていましたが、やがてマスオさんに並び、気がついたら、波平さんの年齢を追い越してしまいました(笑)。しかし、自分や世の中が変化しようとも、変わらずにいてくれる。そんな『サザエさん』を見ていると、どこか遠い親戚に会っているような気持ちになるのです。とくにすごいスピードで進んでいく現代社会に追い立てられるように暮らしている私たちにとって、普遍的な『サザエさん』は、“心の故郷”。見るだけで、心の安らぎが得られるはずです」
テーマ曲を聴いただけで「あ~明日から仕事か……」と、月曜がくることを憂う“サザエさん症候群”と呼ばれるものもあるが……。
「私は、番組を見ることで頭がリフレッシュされ、自律神経が整い、月曜に向けて活力が湧いてくる『逆サザエさん症候群』です」と、碓井先生。
「磯野一家にはインターネットもなければ、スマホを使っている人もいません。そして時間に追い立てられることなく、幸せに過ごしているのです。人や社会とつながっていないことの不安から、私たちは、ネットやスマホが手放せません。しかし『サザエさん』は、“つながることは、そんなに大切なこと?”と問いかけてくるのです。夫婦や家族、近所との付き合いなど“ほどよいつながり”で人は幸せに暮らせることを日曜の夜に確認することで、肩の力を抜いて、月曜を迎えられるのです」