「’17年の国会で審議されることになっているのですが、『介護保険制度』の一部に見直しがあります。今後、介護を取り巻く環境は悪化することはあっても、よくなることはありません。利用者は注意が必要です」
このような問題提起をするのは、淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんだ。約650万人もの団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となる’25年に向けて、利用者の“負担増”は避けられないという。
「介護保険制度がスタートしたときの介護サービスの自己負担額は、全員が1割負担でしたが、’15年からは、単身で年収280万円以上の層が2割負担に引き上げられました。そして次回の改正では、年収が383万円以上の人が、3割負担になることが確実視されています。この負担増の対象者は高齢者の3%ほど。年金生活者としてはかなりの富裕層といえますが、まずはこれを足がかりに、今後数年をかけて対象者が増えると見ています」(結城さん)
ご長寿が当たり前となった今、誰もが“介護が必要な体”になったときのことを考えておいたほうがよい。年金や介護保険の制度変更も注視しながら、「介護資金」の蓄えに備えたいもの。
「介護サービス利用料と、おむつ代や外出介助費用など、保険外で全額自己負担となる在宅介護に関する費用は、要介護度が上がるにつれて、高くなります。家計経済研究所の調査では、要介護1が月平均5.4万円に対し、要介護5では月平均10.7万円と大きな差があります」
そう語るのは、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんだ。病気の治療と比べて、介護は長期間におよび、終わりが見えないもの……。黒田さんが介護資金について解説してくれた。
「’09年、’12年、’15年の生命保険文化センターの調査によると、全体の約3割の人が介護期間は4〜10年未満だったと回答しています。平均介護期間は、’15年でのデータで4年11カ月(59.1か月)。介護期間10年以上は全体の15.9%でした」(黒田さん)
同調査のなかで介護費用(月額)について見てみると、平均介護費用は、’09年が7.3万円、’12年が7.7万円、’15年が7.9万円。’15年で最多の回答数は「15万円以上」だった。
「平均介護期間と平均介護費用を掛け合わせ、さらに要介護と認定されたときの一時金の平均額80万円を足すと、約547万円になります。これが介護費用の目安ともいえますが、在宅介護か施設入所かで介護のお金はケースバイケース。まずは300万円をめどに準備しましょう、とアドバイスしています」(黒田さん)
前出の結城さんは、介護資金を含めた老後資金について、次のように試算してくれた。
「よく“老後資金3,000万円”といいますが、そこまでは必要ないでしょう。もちろんぜいたくはできませんが、公的年金が月14万〜15万円の人は、1人当たり700万円の貯蓄があれば十分。月6万円ほどの国民年金がある人は、1人当たり1,000万円の貯蓄を目指してください。つまり、この2人が夫婦の場合、1,700万円の貯蓄があればよいということになります」(結城さん)