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「昨年4月から施行された『医療・介護一括法』は、退院したら転院ではなく、自宅での療養をうながしています。今までは病棟の医師や看護師に訪問医療の知識がなく、連携がうまくいっていなかったのですが、今後は病院で治療後に地域の訪問医にみてもらうという流れが加速します」

 

そう語るのは「在宅ひとり死」を推進する社会学者の上野千鶴子さん(68)。たとえまだ夫が元気でも、必ずどちらかは先に死ぬし、おひとりさまになる可能性は誰にでもある。そうなっても家で死ぬことは可能だと上野さんは説く。

 

「これまでは『最期はどうするのか』について話し合うこと自体が敬遠されがちでしたが、元気なうちから『どう死ぬのか』について話し合っておくことが大切です。治療方針をめぐって意見の食い違いが起こるのは、親子間でのコミュニケーションが圧倒的に不足しているからです。終末期の医療についての書面や事前指示書などは必要ありません。自分の意思を伝えることができなくなった場合に備えてふだんから親子の間でコミュニケーションをとっておけば、問題は起きません」

 

「在宅ひとり死」のためには4つの力が必要だと上野さんはいう。1つずつ解説してもらった。

 

【おひとりさま力】

 

「まず自分自身が『最期まで家にいたい』という強い意志を持つことです。私が『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版)を書いたのは、ひとりで死んだら『孤独死』といわれることに『大きなお世話』と言いたかったから。ひとり死を阻む抵抗勢力のひとつが家族です。子どもは『老親をひとりにはしておけない』『親は必ず看取らねばならない』と思いがちですが、高齢者の『ゆっくり死』には時間がかかりますし、たとえ死に目に会えなくてもお別れの機会はたくさんあります。そして、結婚していても夫が先に死ぬほうが多いんですから、シングルライフを最期まで謳歌すればいいんです。そのためには高齢期になったら、都市機能が発達した便利なところに住むのがベスト」

 

【ちょっとのお金】

 

「ある訪問看護師の『自己解放』という言葉に感心しました。年齢とともにできなくなることを、他人に委ねることが大事。何もかも自分でやろうとせず、ちょっとのお金で遠慮なく助けてもらいましょう。介護保険は利用料の上限が決まっていたり、サービスの内容にも制約があります。在宅ひとり死には、いくらか足りません。が、いくらもかかりません」

 

【司令塔の役割の子ども】

 

高齢になると人は子に依存しがち。四六時中携帯電話にかけ「すぐ来い」という人も少なくない。最初に電話をかける相手を訪問看護ステーションやケアマネジャーに変え、家族以外の選択肢を作れば、ひとりで暮らすことに家族も自分も安心できる。

 

「介護における子どもの役割は『司令塔』です。メールや携帯でケアマネージャーとやりとりできる司令塔の役割をするだけでいい。司令塔の役割は意思決定。子どもがいなければ、子どもに代わって司令塔の役割をしてくれる誰かを調達すればいいのです」

 

【24時間連携の介護と医療】

 

人によっては終末期まで数年を要することもある。24時間連携の介護と医療があれば、ふだんの生活を支えられる。上野さんは、’12年にできたサービス「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」をすすめる。

 

「このサービスは、1回10〜15分の訪問介護を1日4〜5回、毎日使うことも可能です。たとえば、要介護5の親と同居していても、鍵をヘルパーに渡しておけば、夜中に家族が寝ているあいだにおむつの交換をしてくれます。人の生活の基本は食べる、出す、清潔を保つ。つまり食事介助、排泄介助、入浴介助の3つのケアで生活を支え、24時間対応の訪問医、訪問看護師と連携をとれば、最期まで自宅で過ごせます。体調に異変があったら119番ではなく24時間対応の医師や看護師に連絡がいくので、家族も安心してプロに任せられます」

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