お昼からビールでほろ酔い気分の常連さんはもちろん、最近では東京の名所として、海外からの観光団も多く訪れる「思い出横丁」。「若月」にもガイドブックを見た海外からの団体様がやってくる。「香港、台湾から、すーごい、今! お店じゅう、海外のお客さんばかりの時もありますよ」(芙美子さん)。「ポークラーメン? OK、OKってチャーシューメン作ったりね。中国の人はおいしい時「イチバン! イチバン!」、ヨーロッパの人は「グー!」って言うんだよ」
そう言ってにっこりと笑った次作さん。ラーメンの湯気みたいに、ほっこりとあったかい笑顔。最初は朴訥に見えたけど、こんなサイコーの顔で笑うなんて。
時代につれ装いを変えてきた思い出横丁で40年、今では海外の人たちからも広く愛されている「若月」のラーメン。クセのないやさしい味はまさに万人向きだが、次作さんの考えはあくまでシビア。
「食べ物は、10人に出して10人がおいしいってもの、作れないからね。1人くらいは、たいしたことないって言うやつもいるし、嫌いだってやつもいる。そうすると、少しでもおいしいって確率が高い方に、味を近づけていくしかない」
全員に好かれるなんて無理。だからこそ少しでも多くの人に好まれる味を。その謙虚な努力が、万人向きの親しみやすい味を作ってきたのだろう。「あと3年。それで俺の時代は終わり」、冗談とも本気ともつかない口調でそう言った次作さん。駅前再開発でのビル建築もしばしば噂される、思い出横丁。2人の故郷・新潟の雪どけ水がコシヒカリになるように、次作さんと芙美子さんの「若月」も、誰かに何かの形で引き継がれていってほしい。