「ラーメン作りの秘訣? そういうのはないねえ(笑)。スープ作る時、後から水足さないとか、麺を茹でるお湯はきれいにしておくとか…それくらいですよ。それよりもお店全体の経営を考えられるか、そっちの方が大事だと思うな。それを徹底せずに潰れていったお店も見てきたからねえ…」

味にとことんこだわる、頑固な職人気質のラーメン屋さんと、牛久保さんの発想は少々異なる。しかし、経営センス、経営マインドが結果的に味のアイデアとなっているところが面白い。

スープ作りで水を足さないという発想は、喫茶店経営の話をヒントに思いついた。
「“豆1kgでコーヒー100杯取れる”という話を聞いて、じゃあラーメンのスープでも同じことができるだろうと。最初から何杯ぶん取るって計算して、それに見合った豚骨と、容量の設備で作った方がいいんじゃないか。一番出汁だけで、味も濃くなるし」

ちなみに現在、ホープ軒では1日に80kg(!)の豚骨を使っているという。 そして麺。東京ラーメンで1、2を争う太いコシが特徴だが、これにも面白いエピソードがある。

「赤坂でやってた頃は細い縮れ麺だったんですよ。64年の東京オリンピックの頃から太くしたと思う」

株価暴落が尾を引いて、オリンピック頼みでとにかく不景気だったという、東京五輪前夜。お店もヒマになっていたが、これを幸い、牛久保さんは屋台の改良に着手。それまで練炭だった火力をプロパンガスに変えた。1日100杯が限度だった練炭に比べ、飛躍的な火力を発揮したプロパン。1日500食が可能となった。必然的に営業のオペレーションも変わる。

「茹で時間の長い太麺だと、お客さんの先読みができるだろうと。茹でている間に2人目、3人目…と増えていっても、最初から多めの玉をゆっくり茹でておけば、間に合う」 同時に、先に述べたようにスープの味もお客のニーズでどんどん濃くなっていったため、“スープの強さに負けない麺”という意味でも太麺はベストチョイスとなっていった。 一見、味の追求とは無関係に思える営業努力が、唯一無二の味を生んでいったホープ軒。はじめて聞くタイプのラーメン誕生秘話に、改めてラーメンの面白さを感じた。

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