アンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査の結果、乳がんの予防のため両乳房切除と再建手術を行ったという告白は、日本でも大きな話題となった。執刀数は2千例を超え、年間100例の乳がん手術を行っている昭和大学医学部乳腺外科の明石定子准教授はこう言う。
「わが国では、1年で新たに診断される人が、約6万人います。そのうち約1万人が命を落とすことになってしまう。乳がんはひとつの病気ではなくいろいろなタイプがあり、どのタイプか調べないことには治療が確定しない時代です。そのなかで彼女のように、血縁者で複数の方にがんが発生する『家族歴』が、最近注目されています」
乳がんの家族歴など遺伝性要因による乳がんは、乳がん全体の15〜20%。今ではがん発症に関する遺伝子と、発症リスクの関係も明らかになっている。研究結果により、乳がんの遺伝要因として特に強いものが、BRCA1遺伝子と、BRCA2遺伝子だと判明したそうだ。
「このどちらかに変異があるものが『遺伝性乳がん・卵巣がん症候群』になりやすいことがわかっています。変異のある遺伝子は、親から子へと性別に関係なく、2分の1の確率で受け継がれます。ただ、この変異を持つ人が全員、乳がんや卵巣がんになるわけではありません」
「遺伝性乳がん」の判断基準となるのは、【1】第1度近親者(親、子、兄弟姉妹)のなかに、発端者(乳がんが最初にわかった人)を含めて3人以上の乳がん患者がいる場合。【2】第1度近親者のなかに、発端者を含めて2人の乳がん患者がいて、そのどちらかが40歳未満で乳がんを発症、左右両側に乳がんを発症、乳がん以外のがんも発症、のどれかに当てはまる場合、とのこと。
遺伝子検査は早期発見、予防の治療を可能にする。BRCA1遺伝子異常は、乳がん発症率80%、卵巣がん45〜50%という。ただし、保険が利かないので自費になる。昭和大学医学部病院では、約28万円かかるそうだ。
「韓国では数年前に遺伝子検査が保険適用になり、個人負担は5%。一気に検査数が増えました。やはり費用の与える影響は大きいです。乳がん学会としては今、保険適用となるよう厚生労働省にお願いしているところです。乳がんの予防切除はこれからです。今後、アンジェリーナ・ジョリーのように、予防切除と再建を希望される人も増えるでしょう」