「輸入食材を使った料理が、日本の外食産業や家庭の食卓に並ぶのは、もはや当たり前の時代になったと思います。しかし、日本でごく普通に口にしている食材も、アメリカなどでは、発がん性のリスクを指摘する研究発表や市民による販売反対運動まで起きて、大きなニュースになっているのです。食のグローバル化が進んでいくなかで、このような世界的な常識となりつつある“危険情報”に無関心でいいのでしょうか?」
こう警鐘をならすのは、ボストン在住の内科医で、ハーバード大学の元研究員として、食や生活習慣と病気との関連を調査していた大西睦子さん。そこで、「がんのリスクがある」と発表されたことのある5つの食材について、大西さんに解説してもらった。
【フェロー諸島の養殖サーモン】
「’04年『サイエンス』で掲載された、インディアナ大学のロナルド・ハイツ教授らの研究では、PCB(ポリ塩化ビフェニール)類の残留レベルは天然より養殖サーモンのほうが高かった。地域では北南米産の養殖よりヨーロッパ産の養殖のほうが高い。なかでも、スコットランドとデンマークのフェロー諸島で養殖されたサーモンがもっとも高い値でした」
PCBとは発がん性があるといわれる環境ホルモン。この毒素は、国際がん研究機関では、『ヒトに対しておそらく発がん性がある』という「2A」に分類されている。また、肝臓や消化管、神経を損傷するリスクがあり、生殖系や免疫系に影響を及ぼす可能性も指摘されている。
【インド産養殖エビ】
‘12年にテキサス工科大学の研究者が、アメリカの4都市(NY、ワシントン、アトランタ、LA)のスーパーマーケットで販売していた養殖エビをチェックしたところ、インドとタイからの輸入された2つのサンプルから、ニトロフラゾンという抗生物質が検出されました。日本では’12年、インドからの輸入品の検査件数958件中32件の違反が見つかり、厚労省は検査体制を強化しました」
ニトロフラゾンは、細胞のDNAに影響を与えるため、発がんリスクがあるといわれており、日本では使用が禁止されている。
【オーストラリア産、アメリカ産牛肉】
「’70年代後半から’80年代初頭にかけて、プエルトリコなどで、養女の乳房が膨らむなど異常な発育が見られました。原因として疑われたのが、合成女性ホルモンが残留していた食肉です。EU内では、’88年に使用禁止となり、合成ホルモン剤を使ったアメリカ産牛肉の輸入も禁止しています。日本でも同様に使用禁止ですが、その処置に矛盾するように、なぜか、合成ホルモン剤が使用された牛肉の輸入が許されているのです」
’12年の農林水産省のでーたによると、日本の牛肉輸入先は1位がオーストラリアで約6割、2位がアメリカで2〜3割を占めている。しかし、これらの国では、合成ホルモン剤の使用が認められている。
【アメリカ産乳製品】
「遺伝子組み換え牛成長ホルモンが牛に与えられると、牛乳の中にインスリン様成長因子1に非常によく似た構造のホルモンが、高レベルで含まれるという研究結果もあります。サンフランシスコにあるSunlight,Nutrition And Health研究所のウィリアム・グランド博士の調査によると、動物性食品に含まれたインスリン様成長因子1が、乳がん、子宮体がん、卵巣がん、腎臓がん、すい臓がん、前立腺がん、精巣がん、甲状腺がん、多発性骨髄腫のリスクを高めると警告しています」
アメリカの乳製品は日本にも輸入されているが、アメリカで生産される牛の5頭に1頭という高い割合で、遺伝子組み換え牛成長ホルモンが使用されている。
【ブラジル産鶏】
「日本の輸入鶏肉の9割を占めるブラジル、そして中国などでは、飼料添加物として有機ヒ素が認められています。動物飼育用ヒ素の商業的な使用は、EUや日本では禁止されていますが、アメリカでは『有機ヒ素は無機ヒ素に比べて毒性は低い』との認識から、’40年代から認められています」
ところが有機ヒ素が、有害な無機ヒ素に変化する疑いがあるという。’11年のFDA=アメリカ食品医薬品局の調査では、ブロイラー100羽について、有機ヒ素を与えた鶏と与えていない鶏の肝臓を比較したところ、与えた鶏のほうに高いレベルで無機ヒ素が検出された。無機ヒ素には肺がん、膀胱がん、皮膚がんのリスクがあるが、がん以外にも、心血管疾患、2型糖尿病、認知障害の発症リスクも指摘されている。