今年5月1日、心筋梗塞などの専門医が集まる日本動脈硬化学会は「コレステロールの多い食品を食べても健康上の問題とならないことを認めた」という声明を出した。
「いままでコレステロールの取りすぎはよくないから、卵は週4個までとかいわれていたじゃないですか。じつは体内のコレステロールは80%が肝臓で作られる。卵をたくさん食べると肝臓がコレステロール合成を休憩するので、コレステロール値が上がることはないんです。こんなことは世界的には15年前からわかっていた常識。それを今回、しぶしぶ認めたにすぎません」
こう話すのは『コレステロール・血圧・血糖値 下げるな危険!! 薬があなたの体をダメにする』(永岡書店刊)の著者で、東海大学名誉教授の大櫛陽一先生。大櫛先生は医学統計学の専門医として70万人の健診結果の解析や地域住民の10年間の追跡調査をして、コレステロールと死亡原因などの研究をしている。神奈川県伊勢原市では男性8千575人、女性1万3千751人を対象に平均6・7年間の追跡をした。
「追跡調査から得られた数字を見てみると、男女とも総コレステロール値が高くなるにつれ、総死亡率が低くなっています。悪性新生物(がん)による死亡も大きく低下しています。逆にいうと、コレステロール値が低いほどがんや感染症で亡くなりやすいということです」(大櫛先生・以下同)
にわかには信じられない話だが、なぜ、コレステロール値が低いとがんになるのか?そのメカニズムを大櫛先生は次のように説明する。
「がんというのは発がん物質、ウイルスや細菌が細胞中の遺伝子を傷つけ、変異させるものです。この細胞を包んでいるのが細胞膜。細胞膜は二重構造になっていますが、コレステロールが鉄筋のような役をしています。もしコレステロールが少ないと、細胞膜が弱くなり、発がん物質などが細胞内に入りやすくなるのです。つまりLDL値(新しいコレステロールを肝臓から運んでいる値)が低いということは、細胞が弱く、修復力も足りない状態。このため、がんになりやすいと思われます」
また、コレステロールが少ないと炎症を抑える副腎皮質ホルモンの合成もできなくなり、免疫力が低下するという。
「今回、日本動脈硬化学会は『食べ物によるコレステロール値の影響はない』と発表しましたが、近いうちコレステロール低下医療そのものを見直すことになるでしょう」