「日本人は、70%以上の人が慢性的に疲労を自覚している“疲労大国”です。私たちは疲れを感じるとき、『体が疲れている』と考えがちですが、実際につかれているのは、体ではなく『脳』なんです」
そう話すのは、『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)の著者で、疲労研究の第一人者の東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身医学博士だ。
「ネット社会になりスマホも普及し、目から入る情報量も格段に増えました。私たちの脳は、ほぼ24時間休む暇がないんです」
脳が疲れている、とはどういうことなのだろうか。梶本先生が監修した疲労の研究では、被験者が有酸素運動を4時間行った。その後、体の各部の疲労度を測定してみると、筋肉や内臓など体への負担はほとんど見られなかった。しかし、1カ所だけ疲労が確認された場所が……。
「それが、脳だったんです。疲労とは、医学的にいうと、『痛み』『発熱』と並んで、人間の生命を守るための警報アラームの一つと言えます。研究では、脳幹の視床下部と、前帯状回と呼ばれる自律神経の中枢が疲れていたのがわかりました」
自律神経といえば、私たちの呼吸や、心拍数、体温、血液循環、消化運動など、全身の機能を制御している。
「自律神経で疲労が感じられると、疲労は、脳内で眼窩前頭野と呼ばれる場所に伝えられます。このとき脳内で、『自律神経の疲れ』から『体の疲れ』に転換が起きます。それが、いわゆる“肉体的な疲労”として認識されるのです」
その証拠に、披露したときに起こるだるさ、ふらつき、発汗、耳鳴りなどは、どれも自律神経失調症と一致するという。自律神経には、心身が活動的なときに働く「交感神経」と、体を休める働きをする「副交感神経」がある。これらは、自分の意思でコントロールすることはできない。
「自律神経が生体機能を維持するために常に働くには、とても多くの酸素を消費します。自律神経を酷使することで、呼吸で取り入れた酸素の一部が、酸化作用の強い『活性酸素』に変わります。すると脳内が活性酸素によって酸化し、神経細胞が“さび”つく。この“さび”が疲労の正体で、自律神経の働きを低下させ体の不調につながる。そして疲労がこびりつき元に戻らなくなることを“老化”と呼びます」
脳が疲労を感じているとき、それを知らせる3大サインがあると梶本先生。
「それは、『飽きた』『眠くなる』『疲れる』です。最初に表れるのが『飽きる』こと。同じことをずっと続けていると、脳の同じ神経細胞の回路が繰り返し使われ、疲労が起きます。そのときに『違う神経細胞を使って』、と脳から発せられ、飽きを感じるんです」
パートのレジ打ち、パソコン入力のミスが続くなど、作業効率の低下もそのサインだ。
「飽きを感じたら休息を取るか、別の作業をしましょう。トイレに行くなど、ちょっとした変化をつけるだけでも、疲労は回復します。できれば、作業内容もこまめに変えたほうが、疲労度が違います」
「眠くなる」は、脳からのよりダイレクトな「休みなさい」というメッセージ。そして脳からの最後のSOSが「疲れた」だという。脳疲労は自律神経の乱れ。放っておくと、生活習慣病、糖尿病をはじめ、歯槽膿漏、胃炎・胃潰瘍、高血圧、脳卒中、がんなどにつながる可能性がある。
「仕事にやりがいを感じ、脳に快感物質が分泌されると“疲労”を感じないことも。しかし、知らず知らずのうちに脳に疲労はたまるものです。蓄積された疲労から、心臓病や脳卒中などの、過労死につながってしまう危険もあります。3つのサインは見逃さないようにしたいものです」