「日本の糖尿病人口は、この50年間で約40倍に増加。その予備軍を合わせると2,200万人を超え、もはや“国民病”といえるほどです。糖尿病は自覚症状がないまま進行するため、予兆がありません。唯一の指標は、血糖値の数値だけです」
こう語るのは、筑波大学内分泌代謝・糖尿病内科の矢作直也准教授。長年、糖尿病の研究をしている矢作先生は、薬局などで簡単に血糖値を測定できる「ゆびさきセルフ測定室」を展開している。
「血液中のブドウ糖の濃度を示す血糖値を測ることが、糖尿病予防の第一歩。しかし、気がかりなのは女性の健康診断の受診率の低さです。大企業に勤めている女性の受診率は高いのですが、主婦やパート、中小企業に勤めている女性だと極端に低下。血糖値を測定する習慣がない……。そこで、薬局で微量の血液をとるだけで、気軽に血糖値が測れるシステムを作ったのです」
’14年に運営を開始した「ゆびさきセルフ測定室」は現在、全国1,500カ所にまで増加。今後も広がりつつあるという。矢作先生が、血糖値を測ることの重要性を解説する。
「糖尿病が進むと、合併症を起こし、失明したり、人工透析が必要になったり、足を切断したりすることも。また、糖尿病になると動脈硬化が進行し、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症など命に関わる病気や、認知症になるリスクも上がります。つまり、重篤な病気の根本的な原因になるのが、血糖値の高さなのです」
では、どのように利用すればいいのだろうか。
「健康だと思っている人にこそ、ぜひ検査をしていただきたい。血糖値は、暴飲暴食など生活習慣が乱れた人だけ上がるわけではありません。とくに40歳を過ぎると、朝昼晩と普通に食事をしていても、上昇するケースがあります。自治体や会社の健康診断で血糖値を測ることが前提ですが、数値が高めだと指摘された人は、翌年の健康診断までの間、3カ月に1度は『ゆびさきセルフ測定室』で血糖値やヘモグロビンA1cを測って、推移を見守ることが重要です」
ヘモグロビンA1cは糖尿病の診断基準になる検査。これは約2カ月間の血糖値の平均を示す値。
「これら血糖値の数値が診断基準に満たない場合でも安心せず、3〜6カ月に1度は測定しましょう。血糖値は、栄養バランスの取れた食事、適度な運動など、生活習慣を改善すれば、それとともに下がっていきます。つまり生活習慣が乱れているかどうかの指針でもあるのです。体重が減っていくことがダイエットの励みになるように、正常な血糖値でいることを、健康的な生活習慣を続ける励みにしてはいかがでしょう。自分の体重や身長がパッと答えられるように、これからは血糖値も、即答できなければいけない時代です」