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「健康寿命は、2000年にWHO(世界保健機関)が提唱した指標です。日本の厚生労働省も’12年に、初めて’10年の健康寿命を公表しました。その後、国はこの健康寿命を延ばすことを目標に掲げ、3年に1度、全国平均と都道府県のデータを発表するようになりました。数値は、各県で行う国民生活基礎調査などをもとに算出されています」

 

こう解説するのは、東京都健康長寿医療センターの新開省二副所長。世界でもトップレベルの長寿国・日本。長生きはめでたいが、最後は寝たきり状態になる人も多いのが現状だ。そこで近年、注目されているのが、“健康寿命”という指標。高齢となっても介護などを受けず、自立して健康な生活を送ることができる期間を指すものだ。

 

’15年には2回目の健康寿命(’13年)が公表された。その全国平均は、男性71.19歳、女性74.21歳。先日明らかになった’16年の平均寿命(男性80.98歳、女性87.14歳)と比較すると、男性は9.79歳、女性は12.93歳の開きがある。

 

平均寿命と健康寿命の差は、言い換えれば介護などが必要な期間。これを短くすることが目標となっているのだ。そして、ランキング上位県からは、健康であり続ける秘訣の一端が見えてくる。

 

「食生活と運動習慣のほかにも、上位県に共通するのは、仕事や趣味などで外に出る機会が多いことです。ボランティアや地域コミュニティでの活動も盛んで、それも健康維持につながっているのではと推察されます」(新開さん)

 

今回は女性の上位県にスポットを当て、働き方の「元気習慣」をチェックしてみよう。都道府県別・健康寿命ベスト5(女性・’13年、厚生労働省)は次の通りだ。

 

【1位】山梨県 75.78歳

【2位】静岡県 75.61歳

【3位】秋田県 75.43歳

【4位】宮崎県 75.37歳

【5位】群馬県 75.27歳

 

健康寿命には、男女差がある。男性が、脳血管系の病気から介護が必要になるケースが多い一方、女性は、骨や筋肉の衰えから要介護になる率が高いという。女性が健康寿命を延ばすには、足腰の丈夫さが重要なポイントだ。

 

「女性は、40代から女性ホルモンの減少とともに骨密度が低下し、転倒による大腿骨骨折などのリスクが高まります。また、骨や関節、筋肉など運動器の衰えから、歩行や立ち座りなど日常生活に支障をきたす人も増えてきます。このような状態を『ロコモティブシンドローム』(ロコモ)といい、要介護になりやすい原因のひとつです。ロコモを防ぐには運動がいちばんですが、必ずしもスポーツだけでなく、外に出て働くなど、さまざまな活動をすることもカギとなります」(新開さん)

 

一般的には、ウオーキングなどの運動が健康維持につながるはずだが、健康寿命上位県の「歩数」のデータからは、必ずしもたくさん歩いている傾向は見られない。特に、雪深く寒さが厳しい北海道・東北地方は、冬の運動量が落ちるうえ、塩漬けした漬け物を食べる文化が根強いからか、がんの罹患率や死亡率が高いといわれている。

 

そんななか、女性のがん罹患率6位、平均寿命39位と、これまで“不健康県”の常連だった秋田県は、健康寿命では3位と、意外にも上位に。“色白の美人”が多いといわれる秋田県は「美容所・理容所の数(10万人あたり)」が1位。また、70歳まで働ける企業割合も1位だ。外出の際、化粧をして身なりを整えることが、心の健康には効果的といわれるが、秋田の女性も、積極的に外出したり働くことで、美と健康を保っているのかもしれない。

 

「秋田では確かに、男性に比べて女性のほうが元気ですね。寒い冬でも家に閉じこもらず、仕事やボランティア活動などに出かける人も多いと思います」(県担当者)

 

健康寿命2位の静岡県は、高齢者向けの「シルバー人材センター」の設置率が1位(’16年)。また、65歳以上女性の有業率も3位と、やはりアクティブなシニアが多い。

 

5位の群馬県も“かかあ天下と空っ風”という言葉どおり働き者の女性が多いようだ。生活習慣などの県民性に詳しい、ナンバーワン戦略研究所代表の矢野新一さんは次のように語る。

 

「“かかあ天下”とは、単に強い女性を表すのではなく、この地方で昔から働く女性が多かったことを指しているんです。伝統的に養蚕業や絹織物産業が盛んで、その主な担い手は女性だった。一方、男性の多くは、宿場町でばくちを打っていたそうです(笑)。群馬県の女性は活発で、ほかにも女性のドライバー率が1位。今でも、働き者のDNAが受け継がれているのでしょう」(矢野さん)

 

元気で働き続けられる環境が整っていることも、健康寿命を押し上げる要因になっているようだ。

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