1747年、人類はぶどうから糖を取り出すことに成功した。「ブドウ糖」の発見だ。ぶどうは、古くからその栄養価や効用が着目された元祖スーパーフルーツなのだ。世紀の大発見であったブドウ糖に続き、耳目を集めたのがぶどうポリフェノール。今はさらに研究が進んでいる。
「’90年代にポリフェノールの健康効果が着目され、含有量が豊富な代表的食物としてぶどうが脚光を浴びました。ポリフェノールとは、野菜や果物に含まれる機能性成分『ファイトケミカル』の一種。自然界には約4,000種類以上のポリフェノールがあるといわれています」
そう語るのは、植物や微生物、発酵食品などを通してアンチエイジングや生活習慣病の予防改善に働く機能成分の研究を行う、筑波大学生命環境系・坂本和一准教授だ。
「植物は強い紫外線や外敵など、さまざまなダメージにさらされています。ポリフェノールは、これからの環境から身を守るために作り出した物質。生体防御の成分ですから、抗菌作用や強い抗酸化作用があるのです。老化の原因とも言われる活性酸素を取り除いてくれるので、ポリフェノールが多く含まれる食物を食べると、抗老化、がん予防、抗動脈硬化、高血圧予防などが期待できるんです」
なかでも坂本先生が注目するのが、ポリフェノールの一種、レスベラトロールだ。
「赤ぶどうの皮に多く含まれるレスベラトロールに大きな期待を寄せています。私の実験室では、線虫を用いた実験で寿命延伸効果、ストレスに対する耐性効果、運動性向上効果が認められました」
ストレスに強くなり、長生きできるなんてスゴイ! まだ線虫実験の段階だが、ヒトにも効果があると期待したい。人類の憧れだった不老長寿効果が期待できるとあり、レスベラトロールはすでに健康食品として流通し、その多くはぶどうから抽出している。
「ほかにも、ぶどうには渋味成分であるカテキンが豊富。そのなかのアントシアニンは眼精疲労の回復に効果が期待できます。またプロアントシアニジンには、高脂血症や動脈硬化の予防効果があると言われています。さらに、神経系に機能性があり、健忘症やアルツハイマー病の改善も見込めるペンタペプチドも含まれています。ビタミン系やリノール酸も豊富です」
言うまでもないが、ブドウ糖も豊富。疲労回復、脳の活性化を促す、頭脳労働には欠かせない成分だ。
昨年、ぶどうポリフェノールに関する興味深い発表があった。ぶどうのポリフェノールが、脂肪の吸収を抑え、皮下脂肪を減らすかもしれないというのだ! ’16年5月にアメリカ・ノースカロライナ大学がマウス実験を行い『ニュートリショナル・バイオケミストリー』誌に2件の報告を発表した(参考:国立健康・栄養研究所『リンクDEダイエット』ホームページ)。
1件目の研究では、1つのグループのマウスにバターの脂肪を多く含む高脂肪食(エネルギー比率33%)、別のグループには同じ食餌にぶどうを添加した餌を11週間与えた。その結果、ぶどうを添加しなかった餌を食べたマウスに比べて、体脂肪率と皮下脂肪が低下した。さらに、腸内細菌叢の変化、善玉菌の増加、多様性の増加、腸バリア機能の改善と関連が見られた。
2件目の研究では、ラード、ヘット、ショートニング、バターを用い、1件目よりさらに高い脂肪食(エネルギー比率44%)をマウスに与えた。そして、同じ脂肪食にぶどうから抽出したポリフェノール、非ポリフェノール、または5%のぶどう汁をそれぞれに添加した。その結果、ぶどうポリフェノールを添加したマウスでは体脂肪、皮下脂肪、腹部脂肪が低下しただけでなく、肝臓の脂肪の炎症マーカー、耐糖能、腸バリア機能も改善した。5%ぶどう汁添加マウスは代謝はよくならなかったが、腸内細菌は改善された。
筆頭研究者のマイケル・マキントシュ博士は「この2つの研究は、ぶどうとぶどうポリフェノールが高脂肪食を摂取することによるいくつかの悪影響を打ち消す助けになることを示唆している」と語っている。
とはいえ、「甘いのにヤセるなんて最高~!」と食べすぎは禁物。可食部100グラムあたり59キロカロリー、果糖もたっぷりあるので、取りすぎは太るモト。適正量を皮ごと食べて、きれいに元気に若返ろう!