創立100年を迎えた宝塚歌劇団。その歴史ゆえに卒団生の“第2の人生”もバラエティに富んでいる。

 

宝塚駅近くの「ますたにデンタルクリニック」の窓からは宝塚大劇場の屋根が見える。「花園とよみ」の名で娘役として活躍していた桝谷多紀子さん(68)は退団後、45歳で歯科医師になり、宝塚で歯科医院を開業し20年が過ぎた。

 

入団時はトップの成績を収め、5年間トップの娘役として活躍し25歳で退団。「少し立ち止まり人生を考えたかったんです。女優の仕事もしましたが、再び大学へ入って『人間』について学びたいと思いました」。以前から「舞台人は歯が命」と考えていた彼女は、歯科大学受験を決心。まず1年間、予備校へ通うための勉強をした。2度めの入試で合格したときは36歳。歯科医師の国家試験は’91年、45歳のとき4度目で合格した。

 

「3年間、母の看病をしながら勉強しましたが、3回目に落ちたときはつらかったです。いつも死ぬことばかり考えていました。それでも私の心には『いつかできるんじゃないか』という思いがありました。諦めずに挑戦できたのは宝塚の日々のおかげです」

 

’97年に83期生として入団し、宝珠小夏の名で雪組の娘役に配属された下薗利依さん(35)は、ドッグサロンの先駆者的存在「青山ケンネル」の専務取締役だ。「もともと母も祖母も宝塚ファンで、『女の子が生まれたら絶対にタカラジェンヌ』と夢見ていて。厳しい学校時代も芸事が好きだったので、楽しかったです」

 

’01年、父親の体調が悪くなり、退団を決意したという。「母から、『動物の仕事を継いでほしい』と言われました。小さいころから犬たちがずっと周りにいましたし、宝塚という一つの夢はかなえることができて、もう十分でした。宝塚の経験から、私はちょっとやそっとのことでは動じません(笑)」

 

80期生、’94年入団、花組娘役だった芽衣かれんさんは、特別養護老人ホームへ慰問に行き、老人医療に興味を持ち、退団。大検を受け、’01年に東海大学医学部に入学。現在、救命救急センターに勤務している。

 

扇千景、松あきらと同期の52期、龍悦代(高樹悦に改名)さんは、現在、大阪芸術大学メディア・芸術学科教授を務めている。娘の芽映(めばえ)さんもタカラジェンヌ84期生で、大阪芸術大学舞台芸術学科の専任講師に。

 

「清く正しく美しく」。宝塚100年の伝統あるジェンヌ魂は、舞台が変わっても輝き続ける。

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