「スタンフォード大学のトップアスリートが実践している『IAP呼吸』を行うと、体の軸が安定し、無理のない姿勢を保てます。自律神経の働きも整い、疲労予防にもなるんですよ。この呼吸法はトップアスリートだけでなく、ホルモンバランスの崩れがちな40代以上の女性の健康サポートにも効果があるんです」
こう語るのは、スタンフォード大学スポーツ医局のアソシエイトディレクター兼アスレチックトレーナーを務める山田知生さん(51)。
米国のIT企業の一大拠点、シリコンバレーにあるスタンフォード大学はYahoo!やグーグルなど、数多くの企業の創設者を輩出してきた。と同時に、多くの五輪メダリストやプロスポーツの名門校としても知られている。
元プロスキーヤーの山田さんは引退後、アメリカに留学。スポーツ医学とスポーツマネジメントの修士号を取得した後、’02年からスタンフォード大学に在籍。現在は女子水泳チームを担当している。
「最新スポーツ科学では、疲れは体だけではなく脳も関係していると考えます。つまり『疲れ』とは、脳が司令塔の『自律神経』と、体の部位に指令を出す『中枢神経』のコンディションが悪くなり、体の各部と脳の連携にズレが生じている状態のこと。体のゆがみも、中枢神経を乱すので、私は『ゆがんだ姿勢の体は疲れやすい体』と定義しています」(山田さん・以下同)
その解消のため、山田さんが注目したのが、“呼吸”だ。
「人間は平均で、1分間に12〜20回呼吸をします。20回呼吸する人は、1日2万8800回呼吸することになります。食事や睡眠には注意しても、呼吸は生命に不可欠なものなのに普段はあまり意識していない。だからこそ、意識して呼吸を改善することで、体を劇的に変えることができるんです」
では、スタンフォード大で実践している「IAP呼吸」とはどんなものか?
「『IAP』とは、おなかの腹腔の圧力のこと。日本語でいうと『腹圧呼吸』です。息を吸うときも吐くときもおなかを凹ませずに、おなか周りを硬くしてパンパンに膨らませたまま息を吐き切っていくのです」
よく似た名前である“腹式呼吸”とは違うと山田さんは言う。
「IAP呼吸をすると、おなかの圧力を常に保つことができます。体の中心が“筒”のようになることで、体幹と背骨をしっかりと安定させることができます。一方、腹式呼吸は、息を吸うときにおなかを膨らませて、吐くときにおなかを凹ませる。すると、呼吸するたびに“筒”は変形しゆがんでしまうのです」
IAP呼吸で体幹を安定させることで、疲れにくい体になる。さらに、ゆっくり深く呼吸をするので、1分間の呼吸の回数も6回程度に減り気持ちも穏やかになるという。
「姿勢を正しくすることができれば、中枢神経と体の連携がスムーズになり、余計な動きをすることがありません。体にかかる負荷を減らして、生活することができます」
また、体幹が安定することで、腰痛の予防と解消にもなる。
「水泳選手には、バタフライ泳法で腰痛になる人が多くいます。私が担当した女子選手のエラ・イースティン選手も肩と腰に痛みを抱えていた。しかし、IAP呼吸を取り入れると、痛みが解消され、疲れにくい体に。そして、’18年の全米大学選手権年間最優秀選手に選ばれるまでになりました」