総裁選が終わり、消費税率アップは既定路線との見方もある。だが、経済ジャーナリストの荻原博子さんは「絶対避けるべき」と話す。また、政府が挙げる緩和策も庶民にとってはマイナスかムダでしかないという。荻原さんが解説してくれた――。
9月20日、自由民主党の総裁選挙で、安倍首相が3選を果たしました。安倍首相は、選挙戦最中の9月10日に「予定どおり、来年10月に消費税を上げる」と明言。また、麻生財務大臣が8月27日に「今の経済状況なら、増税できる」と話すなど、消費税増税は既定路線との見方もあります。
ですが私は、消費税を上げるべきではないと思っています。もし増税されたら、私たちの家計や、ひいては日本経済に、破壊的なダメージを与えると思うからです。
確かに「給与が上がった」というデータもあります。しかし、もともと給与水準の低い若い人や高齢者の給与が上がり、平均値を押し上げただけ。働き盛りで教育費も重くのしかかる40代、50代前半の給与は、前年より下がっています(’18年2月・厚生労働省)。
今、社会の中心を担う40代・50代が困窮しています。増税をきっかけに破たんする方が増えれば、日本全体を揺るがしかねません。
さらに、10%のわかりやすさが追い打ちをかけます。1万9,800円の買い物をして、8%の消費税をすぐに計算できる人は多くないでしょう。でも10%なら簡単です。「消費税がこんなにかかるなら」と買い控える方が多いと思います。
増税後は、今よりもっと消費が冷え込み、景気はますます悪化し、デフレ脱却などできないでしょう。
ですが日銀は、’14年に5%から8%に増税したときより「家計への影響は小さい」と楽観的です。その理由は、増税の幅が、前回の3%から今回は2%になることに加え、政府がさまざまな緩和策を講じるからだといいます。代表的なものを見ていきましょう。
【軽減税率】
消費税は、自分の収入からいくら消費税を払ったかという割合で比べると、低所得者の負担が大きい税金です。高所得者は、収入の一部を消費し、残りは消費税のかからない貯蓄などに回せますが、低所得者は収入のほとんどを消費し、消費税を払うからです。
低所得者の負担を軽くするために、軽減税率が導入される予定です。軽減税率とは、酒類以外の飲食料品と新聞(週2回以上発行で定期購読)は、増税後も、消費税を8%に据え置くというものです。
軽減税率が実施されると、業者は大変です。飲食店で販売するものは税率8%でも、割りばしなど仕入れには税率10%のものも含まれます。食品に関係しない企業でも、来客用の茶葉など食品は税率8%で購入します。ほぼすべての業者が、8%と10%の複数税率に対応した会計処理や、レジなどの更新が必要になるでしょう。
とはいえ、それだけの労力とコストをかけても、業者のもうけは増えません。客足が遠のくのを恐れて、増税後も値上げしない業者は、もうけが減ります。
業者のもうけが減ると、そこで働く人の給与は上がりません。さらには、減給やボーナスカット、リストラに発展するかもしれません。社会全体の景気も悪化し、家計はますます厳しくなるでしょう。
【消費税還元セール】
前回’14年の増税時には、政府は特別措置法を作って、消費税還元セールを禁止しました。当時、流通業界などから「自由な価格競争を阻害する」と批判されましたが、それでも「セールを行うと中小の納入業者が値下げを強要され、増税分を取りはぐれる事態を防ぐため」と押し通したのです。
しかし、今回は一転。容認の方向で議論が進んでいます。
前回の増税時には、直前に駆込み需要が大きく、増税後は消費が大きく冷え込みました。そして、消費の冷え込みは、今でも解消されていません。前回の二の舞にならないようにと考えたのでしょうが、私は、セールがあれば消費が増やせるほど、消費者はバカではないと思います。
また、前回注目された納入業者の増税分取りはぐれについては、どう対策するのでしょうか。今でも少ない利益から、増税分の負担が増えたら、倒産する中小企業も出てくるのではと心配です。
政府が本当に国民の生活を思うなら、消費税増税をやめるべきです。今後、増税反対の世論が高まれば、増税が延期される可能性もまだまだあると思います。