部屋をきれいにしようと思って行っていた“掃除の基本”が、じつは病気の原因になることが! 年末にかけて掃除の意識も高くなるこの季節、一度自分の習慣を見直してみて。
「最近、日本で急増しているのが肺MAC症という病気です。これは進行するとせきや血痰が出る病気で、年間1,000人の人が亡くなっています。原因となる肺MAC菌は家庭の浴室にも生息しているのですが、浴室の間違った掃除法によって、この菌を繁殖させてしまうケースが少なくないんです」
こう警鐘を鳴らすのは、日本ヘルスケアクリーニング協会代表の松本忠男さん。松本さんはダスキンヘルスケア、亀田総合病院グループなどの清掃管理者として長らく従事。科学的観点から清掃の指導をする第一人者だ。先日出版した『図解 健康になりたければ家の掃除を変えなさい』(扶桑社)が話題になっている。そんな“掃除のスペシャリスト”の松本さんによれば、浴室以外にも多くの人がやりがちなNG掃除法があるという。
「いままで常識とされてきた家の掃除の仕方の数々に、かえって病気の原因を呼び寄せてしまう危険が潜んでいるのです」(松本さん・以下同)
家庭で気をつけなければいけない病原体は大別して2つ。1つは空気中を漂うホコリに含まれるダニやカビなどの「のど痛病原体」、もう1つがキッチン、浴室やトイレなどに多い大腸菌や黄色ブドウ球菌などの「はら痛病原体」。NG掃除法はこれらの菌による健康被害のリスクを高めてしまうというのだ。
「近年のマンションや戸建て住宅は、気密性がひと昔前に比べ格段によくなりました。また、掃除で使う道具なども、昔はなかったものが登場しています。こうした環境の変化も、多くの人たちがよしとしている掃除法が通用しなくなっている理由です」
松本さんが指摘する代表的な「NG掃除法」は次のとおり。
【寝室】寝室の掃除を夜にする
部屋中のホコリが舞い上がった後、落ちてくるなかで就寝することになり最悪! ホコリ成分のダニ、土壌菌などにより気管支ぜんそく、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症のリスク。
【トイレ】洗剤をつけてすぐに便器をこする
洗剤が汚れに浸透して効果を発揮するのには3分以上かかる。すぐにこすると殺菌効果が十分に発揮されず、除去できなかった大腸菌や黄色ブドウ球菌による感染性胃腸炎を招く。
「トイレの洗剤は十分に効果を発揮するまでに、最低3分間は必要。しつこい汚れの場合は10分間ほど放置してからブラシ掛けすると効果的でしょう」
【洗面台】洗面台をぬれたタオルで拭く
ぬれたタオルで洗面台をぬぐっても、水分が残るため緑膿菌が繁殖。呼吸器感染症、尿路感染症の原因になる危険が。
「洗面台は乾いたマイクロファイバークロスで拭くことをおすすめします」
【浴室】浴室は使った後、泡や髪の毛をシャワーで流す。浴室の掃除を温水でする
菌やカビの多くは25度前後の温度と湿度70%以上で増殖する。入浴後シャワーで流しただけではカビ、肺MAC菌などが繁殖し、肺MAC症、感染性胃腸炎などを引き起こす。流した後、水切りワイパーで壁や浴槽の水滴を取ること。浴室の温度を上げないためにも、掃除は冷水で。
「入浴後、残った泡や髪の毛などをシャワーでさっと流して終わり、という人も多いのですが、浴室に繁殖する病原体にとっては湿度が高いほど好環境。面倒かもしれませんが、シャワーをかけた後、水切りワイパーなどで、浴槽、壁、床の水滴を払っておくひと手間が大切です。また、清掃時のシャワーは、湿度を上げないために冷水を使用してください。浴室乾燥機があれば、掃除後に使用して湿気をきちんと除いておくのがベストです」
【キッチン】食器をまとめて洗う
使用済みの食器をシンクにためると、数時間後には雑菌が1万~2万個に大増殖。腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌による食中毒、感染性胃腸炎の原因にもなるため、たいへん危険!
長年、病院の清掃に関わってきた松本さんにとって、《掃除は物理と化学でできている》というのが信条だという。
「家のホコリや水アカなどを放置していると、そこに生息する病原体は爆発的に増殖し、免疫力の弱い人から順に感染していきます。それを防ぐためには、科学的に有効な掃除法を心掛けてください」
病原体は目に見えない。感染リスクを防ぐためにも、まず日ごろのお掃除を見直してみよう!