「『2人に1人はがんになる時代です』と言われると不安のあまり、医療保険やがん保険に入りたくなります。さらに、『預金ではお金が増えません』と言われ、老後資金を準備するため、終身保険などに入る人もいます。長生きリスク、認知症などあらゆる“不安”をかきたてられて、営業マンに勧められるまま、たくさんの保険に加入し、1カ月で何万円も費やしている人を見かけます。老後が長くなるこれからの時代、なるべく早いうちに『本当に必要な保険』を見極める必要があります」
そうアドバイスするのは、『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春新書プレイブックス)の著者で「保険相談室」代表の後田亨さん。すべての保険が「ムダ」というわけではない。たとえば、自転車の賠償責任保険や、火災に備える保険など、巨額のお金が必要になるケースには保険が役立つという。
「子どもが大学を卒業するまでといった一定期間の死亡に備える『定期保険』、病気で長期間仕事ができなかったときに備える『就業不能保険』、または相続対策のために加入する『終身保険』などは、検討に値する保険といえますが、ほかの保険はどうしても必要とは思えません」(後田さん・以下同)
必要性が疑われる保険に保険料を支払い続けるよりも、貯蓄も含めて、有効なお金の使い道を選んだほうがいいという。そこで、後田さんに「いらない保険」を教えてもらった。
【外貨建て保険】
保険料が米ドル、ユーロ、豪ドルなど外貨で運用され、保険料の払い込み、保険金の受け取りも外貨で行われる。手数料が高く、元本割れ期間がある。為替リスクもあるのに、積立利率や将来の返戻率の高さが強調される。資産形成には不向き。
【貯蓄性保険】
個人年金保険や学資保険など、老後や子どもの進学時期にあわせて給付金が受け取れる。中途解約時の元本割れリスクに比べお金の増え方は少ない。
【長寿保険】
死亡保障はなく、保険料払込み期間に解約した場合の返戻金の水準が低い。その代わり長生きした場合の給付額を大きくしているが、加入期間の長さ・中途解約リスクを考えると、給付額は物足りない。
【終身保険】
「一生涯死亡保障が続く」「解約時には相当額の解約返戻金が払い戻される」というのが特徴で、相続対策には役立つが、ほかの使い道は考えにくい。
【医療保険】
民間の保険では入院給付金が1日5,000円~、手術給付金は1回5万~10万円といった保障があるが、公的医療保険(健康保険、国民健康保険)の自己負担上限額は、一般に月9万円程度。高額な先進医療も実効性が証明されていない医療もあり必須ではない。
【がん保険】
がんになったときに診断一時金、入院給付金、手術給付金が受け取れるのが基本。日本では標準的な治療が健康保険で受けられるので、貯金などで対応するのが合理的。
【介護・認知症保険】
現在50歳の人が要介護認定を受けるとすれば、30年くらい先の話なので、お金の価値が怪しくなる。例えば一時金300万円や年金年額60万円が、30年後にも現在と同じ価値を持つとは考えにくい。
【健康増進型保険】
保険加入後の行動や健康状態で保険料が再計算されたり、還付金が支給されたりするが、そもそも割引前の保険料設定が妥当なのかは不明だ。
■“長生きリスク”など将来への不安に備えるのに保険は適さない
「貯蓄性保険」には、「学資保険」や「個人年金保険」などがあるが、保険を貯蓄のために利用するのは間違いと後田さんはいう。
「保険料のすべてが貯蓄に回るのではなく、経費などが差し引かれます。一定の元本割れ期間があるのは経費が高いからです。遠い将来、保険料総額に対し100%を超えるお金が払い戻されるとしても、物価が上がれば、お金の価値は契約時より下がります。お金を増やすなら、個人型確定拠出年金(iDeCo)など、保険よりコストが低い仕組みを利用するのが賢明です」
最近は、公的年金の不安分をフォローする個人年金保険にも注目が集まっているが、50代以降に加入すると月々の保険料は高くなる。“長生きリスク”に備える「長寿保険」(トンチン年金)は、死亡保障をなくしたうえ、保険料払込み期間内の返戻金を低く設定。その分、長生きした場合の年金額を増やした商品。90歳前後まで長生きすると、払い込んだ保険料以上のお金が受け取れる設計になっている。
「70歳までの20年間で1,000万円を支払ったとして、『100歳まで生きたら1,200万円受け取れる』と、パンフレットなどに書かれていても、50~100歳までに200万円生み出す方法は保険以外にもあるはずです」