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脳動脈にできたこぶ状の血だまり、脳動脈瘤。これが破裂すると「くも膜下出血」を引き起こし、死に至ることも少なくない。血管と脳動脈瘤の間の根元にチタン製の小さなクリップを挟み、破裂を未然に防ぐのが「クリッピング」と呼ばれる脳外科手術だ。高度な技術と集中力を要するこの手術のスペシャリストである女性が名古屋にいる。

 

「脳動脈瘤は同じように見えて、患者さん一人ひとりでそれぞれ特徴が異なります。実際に開頭してみたら、予想以上に手術が難しいという状況も少なくありません。細かい血管を間違えて傷つけてしまうだけで、運動まひや言語障害などの後遺症が起きてしまうこともあるのです。毎回、全神経を集中して行っています」

 

おだやかに語る表情からは想像できないが、藤田医科大学ばんたね病院の脳神経外科医・加藤庸子先生は、脳外科手術を週3回、年に100例以上こなす。通算手術数は3,000例を超え、これは女性の脳神経外科医としては世界一の数字だ。“脳外科医のゴッドマザー”。人は加藤先生のことをそう呼ぶ。

 

そんな加藤先生の「ゴッドハンド伝説」を紹介。

 

【1】脳神経外科医の認定資格に、男性医師たちを抑えトップ合格

 

’85年、医師の国家試験より難関といわれる専門医資格にトップの成績で合格。

 

【2】日本脳神経外科女医会を発足させ、代表世話人に

 

’91年、全国に25人しかいなかった女性脳神経外科医で発足。現在は約400人が参加。

 

【3】世界脳神経外科連盟で、アジア人女性初の副事務局長就任

 

’01年就任。現在も世界40カ国以上を回り、海外医療支援に従事。

 

【4】女性としては日本初の脳神経外科教授になる

 

’06年、藤田医科大学で日本の大学の脳神経外科では初の女性教授に就任。

 

脳神経外科の医師といえば、いまも男性のイメージが強い。そのため「女性医師では不安だ」「女性はヒステリーを起こすから、男性医師に代えてくれ」などと、加藤先生はこれまで何度も、患者の心ない言葉に直面してきたという。

 

「悔しくて、若いころは泣きました。でも、患者さんと信頼関係を築かないまま手術をするのは得策ではないと割り切れるようになりました。もちろん愉快な話ではありませんが、そこで感情を爆発させて得になることはありませんから」

 

診察室では常に笑顔の加藤先生。“患者目線で心に寄り添う”がモットーだ。

 

「決して腐らない。たとえうまくいかなくても、あきらめない。がむしゃらに医学と向き合ってきた結果が、いまの自分だと思います」

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