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「お尻上げて!」
「いける、いけるっ!」

 

ここは茨城県水戸市にある「オリバー・ボディビル&フィットネスクラブ」。本格的なマシンが並ぶなか、黙々とトレーニングに励むのは女子ベンチプレス世界最高齢選手である奥村正子さん(89)。

 

背筋も腰もまっすぐに伸びた奥村さんは先日、千葉県成田市で開催された世界大会(70歳以上の部・47kg級)で42.5kgのバーベルを上げ、見事5回目のゴールドメダルを獲得。

 

この日、午前10時半から2時間かけたハードなトレーニングの後、爽やかな笑顔でインタビューに答えてくれた。

 

「今日もまた課題ができたわ! 家に帰って反省よ」

 

そう言って汗をぬぐう奥村さんがベンチプレスを始めたのは72歳のころ。

 

「若いころから選手だった人より、遅く始めた人のほうがむちゃもしないから長続きするのよ。よく飽きもせず17年も続いたと思うわ」

 

奥村さんがこの道を極めるきっかけは“トイレ”。50歳のとき、突如、和式トイレで立ち上がることができなくなり、「これはいけない」と運動の必要性を痛感。始めたころは2kgのダンベルをやっと持てるくらいだった奥村さんが、いまや世界一の力持ちなのだから、人生はわからない。

 

体力づくりにベンチプレスを選んだのは、「主人がやっていたから」。しかし、ともにトレーニングに励んだご主人の肇さんは3年前に他界してしまう。

 

「主人は私の先生でしたから納棺のときはトレーニングウエアを着せました」

 

と目を伏せたのは一瞬。奥村さんは笑顔に戻り、こう続ける。

 

「主人は旅行へ行っていると思っています。毎朝、彼のコーヒーも入れ、『寂しいけど、まだ迎えに来ないでね」と語りかけています」

 

奥村さんの当面の目標は、東京オリンピックの聖火ランナーになること。こうして目標を持つことも、生きる原動力になっている。

 

「誰しも年は取るけれど、精神的には年を取りたくないと思っています。毎日『今日はどんな人に出会えるだろう』と朝になるのが楽しみ。青春時代よ、いつも!」

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