加入要件が引き下げられ、加入者も増えているiDeCo。「主婦でもできる」といわれるが、それは反対意見への隠れみのだという。経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれた――。
■iDeCoには3つの税制メリットが
政府は、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入要件を広げようと、改革案を検討しています。iDeCoとは、加入も、運用方法も、掛金(働き方により上限あり)も自分で自由に決める私的年金です。3つの税制メリットがあるため、注目されています。
【1】掛金が全額所得控除
たとえば掛金が月1万円の方は、年12万円が所得から控除されます。すると、減った所得12万円にかかるはずの税金が不要となり、所得税は、所得税率が10%の方なら1万2,000円、20%の方なら2万4,000円安くなります」
【2】運用益が非課税
通常、投資信託などでは運用益に、定期預金では利息に、20.315%の税金がかかりますが、iDeCoの運用益は非課税です。
【3】受け取るときにも控除あり
iDeCoの受け取りは一時金か年金のどちらか。一時金なら「退職所得控除」、年金なら「公的年金等控除」が利用できます。
こうしたiDeCo制度は’02年に始まりました。当初は、自営業者と企業年金のない会社員が対象。特に自営業者の公的年金は、国民年金だけの“1階建て”ですから、会社員のように国民年金の上に厚生年金が積み上がる“2階建て”と比べると、老後の不安が大きいです。iDeCoで老後の備えを厚くすることが目的でした。
その後、企業年金のある会社員や公務員なども加入できるように、iDeCoの加入要件を広げようとする議論がありました。ですがそのたび、公務員のiDeCo加入には、強い反対があったのです。
というのも、公務員はすでに、国民年金の上に厚生年金があり、さらに「年金払い退職給付」が重なった“3階建て”。iDeCoの加入を認めると、ひときわ手厚い“4階建て”になるからです。
また、国民の平均年収が約432万円(’17年分・国税庁)に対して、公務員の平均年収は約686万円(’18年・人事院)。iDeCoは所得税率の高い高給取りほど節税効果が高いものですから、そもそも税金から給料が拠出されている公務員が、大きな節税メリットを受けるのはおかしいと反対されたのです。
ですが’17年。専業主婦や公務員にも加入対象が広がり、ほぼすべての方が加入できるようになりました。「主婦も加入できる」ことを前面に押し出して、その陰に隠れるように批判をかわし、公務員も加入対象に含めた格好です。
その結果、iDeCoの加入者は急増。’16年までは約30万人でしたが、今年7月には130万人を超えました。2年半で4倍以上に増加し、株価を下支えする人を増やしたい政府のもくろみは、大当たりしたのです。