「厚生労働省によると、’25年には約700万人が認知症になると推計されています。“5人に1人”が認知症という時代に突入するにあたって注目されているのが『個人賠償責任保険』なんです」
そう話すのは、介護に詳しいファイナンシャルプランナーの豊田眞弓さん。認知症に備える保険といえば、認知症と診断されたときに一時金が出るものや、徘徊中でのケガなどに対して給付金が支払われる生命保険が一般的。
一方で、「個人賠償責任保険」は、他人にケガをさせたり、物を壊すなどしたりして、法的な賠償責任を負った場合などに補償される保険のことだ。
「他人の物を自分の物と思い込んで盗んで壊した、水を止めるのを忘れ下の階に漏れてしまった、無免許であることを忘れて運転したことで事故を起こしてしまった、突然暴れだしヘルパーさんなどを傷つけてしまった……などなど、認知症の人が起こす事故のリスクは挙げればキリがありません。もし損害賠償請求が生じたとき、『個人賠償責任保険』に入っていれば、カバーできるのです」
’07年、愛知県大府市にあるJR東海・大府駅で、要介護度4の認知症男性(当時91歳)が、線路内に立ち入って死亡した鉄道事故が起きた。JR東海は、要介護1の妻(当時85歳)と、離れて暮らす長男に対して損害賠償約720万円を求める裁判を起こし、二審では妻に約360万円の支払いが命じられることに。
’16年最高裁で「監督義務者は不在」と判断され、家族への賠償は棄却されたものの、この裁判で明確になったのは、裁判で“監督責任があった”と見なされれば、離れて暮らしていても、あるいは介護施設に入っていたとしても、認知症の家族が起こした事故の責任を取らされる可能性があるということだ。
「個人賠償責任保険は、単品ではほとんど発売されておらず、自動車保険や自転車保険、そして火災保険などの特約としてついていることがほとんどです。補償額は1億円程度のものが多いのですが、自動車保険には無制限のものもあります。共済、クレジットカードの任意加入サービスなどでも同様の補償を行っている場合が多いので、もし重複して複数の保険に入っていたことがわかった場合は、補償額が高く、示談交渉サービス付きのタイプを残すことが、見直すときのポイントになります」
基本的に一人入っていれば、同居する家族や別居の未婚の子までカバーできる。
「大府市の事故の後、多くの保険会社で補償内容が改定されました。親が認知症などで法的責任を取れないために賠償責任を負ってしまった別居する子も補償の対象に加えたり、線路立ち入りによる損害は対象外だったものが補償の対象になったりするようになりました」