いよいよ冬本番。今年も風邪などの感染症に注意が必要なシーズンが到来したが、中高年がとくに気をつけたいのが「肺炎」だ。では、日常生活で肺の炎症を予防するにはどうしたらいいのか?
『肺炎がいやなら、ご飯に卵をかけなさい』(飛鳥新社)の著者で、これまで30年以上呼吸器の診療にあたってきた日赤医療センターの生島壮一郎先生は、「『気道クリアランス』を保つことです」と話す。
「気道クリアランスとは、大気中に無数に存在する細菌やカビ、ウイルスを排除するべく体に備わっている防御機構の1つです。のどの奥にある気管支の内側の粘膜には細かい線毛がびっしりと生えていて、異物が入ってくるといっせいに上へ上へと動いて、その異物を押し出そうとしてくれます。さらに線毛の表面には、まるで川のように粘液が流れており、これが異物をからめとり、排除してくれているのです。この気道クリアランスの機能が低下すると、細菌やウイルスが肺に入り込んだ際に、増殖しやすくなります。肺炎を防ぐ関門、まさにそれこそが、気道クリアランスなのです」
肺炎予防の第一歩は、「のどケア」から始めよう。「のどケア」と聞いてまず思い浮かぶのは、そう、うがいだ。
一般的には風邪の予防法として知られているが、「気道クリアランスによって気管からのどまで上がってきた異物を出す、という側面もあるんですよ」と生島先生。巷では、うがい薬をはじめ、塩水うがいや緑茶うがいの効果がよく比較されているが、ぬるめの水道水で十分だという。
さらに、日々の生活のなかでできる「のどケア」はまだまだある。まずはなんといっても禁煙だ。
「たばこといえば肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)のリスクとしておなじみですが、肺炎も無縁ではありません。長年喫煙している人は肺や気管支に傷が集積して、気道クリアランスの機能が低下しています。当然肺炎にかかるリスクも高くなり、喫煙者が肺炎にかかるリスクは、非喫煙者の2倍とも3倍ともいわれているのです」
仮に自分は吸わなくても、夫や家族に喫煙者がいる場合は「受動喫煙」に要注意。たばこの点火部から立ち上る副流煙は、喫煙者本人が吸い込む主流煙よりも有害物質を多く含むとされているからだ。
「当然、そうした有害物質の影響も無視できません。さらに最近では、たとえたばこを吸っていないときでも、日常的に喫煙する人の呼気や汗に混じって皮膚から有害物質が蒸散するという『3次喫煙』まで問題になっているのです」
禁煙してくれない夫とは、常に距離をとっておいたほうがよさそうだ(夫婦仲はさておき)。とはいえ、たばこ以外にも大気中には有害物質がいっぱい! これらをより「手前」で食い止めるためには、鼻呼吸を忘れずに。
「単に鼻毛が異物を吸着してくれるだけではありません。鼻は鍾乳洞のような構造になっており、これによって鼻腔を通る気流が屈曲し、10マイクロメートル以上の粒子は鼻の粘膜で吸着される仕組みになっているのです。おまけに1日1リットル近く生産される鼻水は、異物をキャッチするだけでなく、吸気も加湿。気道クリアランスの負担を軽減させるためにも、鼻呼吸を心がけましょう」
最後に、意外なところでは「朝食前の歯磨き」と、「お風呂の追いだき注意」。
「歯に付着した歯垢1ミリグラムには1億個以上もの細菌がいます。寝ている間は抗菌作用のある唾液の分泌が減るため、口腔内の細菌は爆発的に増加。朝起きたらすぐに歯を磨くようにしましょう。また、お風呂を繰り返し追いだきすると、レジオネラという細菌が大量発生。この細菌に起因する肺炎は重症化する傾向があるので、追いだきは避けましょう」
一般的に肺は、通常の生活では持てる力の半分も使用せず、全身に酸素を届ける予備能(余力)を持っている。
「しかし、慢性的に肺に炎症が続いたり、誤嚥性肺炎を繰り返して肺や気管支に傷が集積すると、この予備能が低下。そこに感染が加わり肺炎になると、圧倒的に命に関わるリスクが大きくなるのです」
「女性自身」2019年12月17日号 掲載