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パッと単語が出てこなくなった、2階に行ったけど何の用事だったのかすぐに思い出せない、人の名前がとっさに浮かんでこない……。そんな経験を持つ人は少なくないはず。これまでは“単なるもの忘れ”と解釈されていたがーー。

 

「実はそれらの症状は、認知機能低下の初期症状なのです」

 

こう話すのは、アンチエイジングの専門家でお茶の水健康長寿クリニック院長の白澤卓二先生。

 

「アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβが蓄積されて起こることがわかっています。数年前までは、その蓄積は50代くらいに始まるとされていましたが、検査方法が進化して、今では早ければ20代、30代からアミロイドβの蓄積が始まるという論文も出ています」

 

そして、そのアミロイドβの蓄積が最初に現れるのが頭頂葉なのだという。頭頂葉は、地図を読んだり、左右や構図、空間を認識する、字を書く、計算するなどさまざまな働きをつかさどる脳だ。

 

「これまでは、もの忘れは記憶をつかさどる海馬と関係していると考えられていました。ところが、最近では、もの忘れは頭頂葉にある“ワーキングメモリーネットワーク(WMN)”と関係していることがわかってきたのです」(白澤先生・以下同)

 

「人の名前が出てこない」や「もの忘れが多くなった」という現象は、最も早く現れるWMNの衰えだというのだ。

 

「頭頂葉の近くには、記憶とイメージをひもづけする領域と、音とイメージをひもづけする領域があります。たとえば、『木村さん』の記憶を、木村さんの『顔』と、『キムラサン』という音とで記憶し、この2つがひもづいて、『この人は木村さんだ』となります。ところが、頭頂葉でアミロイドβの蓄積が始まり、WMNに支障が出始めると、とっさに名前が出てこなくなるのです」

 

しかし、頭頂葉を鍛えるトレーニングをすることで、WMNの機能低下を遅らせることができると白澤先生は言う。

 

「たとえば、左手と右手で異なる動きをするようなトレーニングは非常に効果的です。左手を先に出して、右手は後出しで左手に負けるようにする“1人じゃんけん”など、いつもは使わないような機能を使うことが頭頂葉の刺激になるのです」

 

最も簡単なのは、毎朝、太陽の光を浴びること。朝日は脳に刺激を与え、体内時計のリズムを整えてくれるからだ。ほかにも次のように1分でできる脳活がいろいろとある。どれもふだん使っていない部分の脳を刺激するものだ。

 

【1】本や新聞を音読する

「文章を読む」作業では、縦書き・横書きの区別、内容を理解するなど、さまざまな脳の領域を使う。加えて音読は、言葉を発する機能、聞く機能と、一度に脳の4部位を使うことに。

 

【2】2日前の日記を書く

脳の認知機能と短期記憶にも深い関係がある。そこで、2日前のことを思い出して短い日記を手書きしてみよう。食べたものや、見た風景でも構わない。思い出そうとすることが重要。

 

【3】ときめくことを書き出す

ときめく時間は、ドーパミンという幸せホルモンを分泌し、脳の認知機能を高めるだけでなく、若返り効果も。好きなコトや人など、トキメキを感じることを書き出してみよう。

 

【4】利き手と反対の手を使う

利き手と反対の手を使うことは、ふだん使っていない部分の脳を活性化するのに有効。歯磨きや箸などを利き手と反対の手で1分ほどやると、新しい感覚を体験でき脳への刺激に。

 

【5】一口30回かむ

かむ動作は脳を刺激し、認知機能を高めることがわかっている。一口30回、1分くらいかけてゆっくりそしゃくを。よくかむことは胃腸の働きを改善し、食べすぎ防止の効果も。

 

【6】「早歩き&ゆっくり歩き」を繰り返す

運動は脳を活性化するが、「早歩き」と「ゆっくり歩き」を1分ずつ繰り返すことで、脳に変化を与える。運動により内臓が刺激されると脳も刺激され、脳機能アップにもなる。

 

【7】階段の上り下り

階段の上り下りは筋力アップになるが、大切なのが下り。1階ぶんでもゆっくり下りると速筋と踏ん張る力がつくうえ、DHEAという若返りホルモンも分泌され、認知機能の改善に。

 

【8】献立を作る

料理は計画力のトレーニング。献立を作るには必要な材料をリストアップし、あるもの・足りないもの、下ごしらえの手順など、複数のことを一度に考える。これが脳を刺激する。

 

【9】1分ストレッチ

(1)背筋を伸ばして立ち、右肩を上げる。上げたらストンと落とす。
(2)左肩を上げる。上げたらストンと落とす。
(3)両肩をなるべく下げ切る。
(4)両肩を上げ、ストンと落とす。(1)〜(4)を5回繰り返す。

 

肩の上げ下げは肩まわりをほぐして脳の血行を改善する。ほかにも「あ・い・う・え・お」と口を大きく開けて発音したり、首を回すことで脳への血流アップが改善される。

 

【10】2:1の腹式呼吸

(1)8カウントかけ、おなかをへこませながら口から息をゆっくり吐く。
(2)4カウントかけ、おなかを膨らませながら鼻から息を吸う。これを5回繰り返す。

 

吸う息の長さに対して、吐く息の長さを2倍にすることで深い呼吸ができる。そうすると、脳のすみずみに酸素が行きわたることになり、脳の働きが活性化する。

 

「手を使うことはおしなべていいのですが、特に『手書き』は、大変おすすめです。書く作業は、手先を動かすだけでなく、縦書きにするか横書きにするかといった認識や、文法、全体の構図、考える、思い出すなど、さまざまな脳の領域を使って行っているからです。また、利き手と反対の手で箸を持つといった、ふだんしない動作を取り入れることも脳への刺激に。さらに、歩く速度を変えたり、階段の下りを意識するなど、全身の筋肉を使うと脳への刺激が増します」

 

どれも、特別な道具を必要とせず、日常生活に取り入れられるものばかり。「1分脳活」で、元気な脳を維持しよう!

 

「女性自身」2020年4月14日号 掲載

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