「30代で自宅を購入したとしても、建物が老朽化する40年後、つまり70歳ぐらいのころには建て替えをどうするのかといった問題が出てきます。同時に、近い将来、介護が必要になって“終のすみか”はどうするのかも考えなければならない時期が訪れます。たとえば、介護施設に入りたいと思っていても、その前に自宅の建て替えやリフォームでお金を使いすぎてしまい、前払い金(入居一時金)が足りなかった、ということもあるのです。まだ元気なうちから“終のすみか”についてきちんと考えておき、予算を確保しておくと、そうした事態を回避できます」
そう話すのは、ファイナンシャルプランナーの岡本典子さん。高齢者施設・住宅を230カ所以上訪問し、シニア期の住まい探しのアドバイスを行っている岡本さんは、いわば“終のすみか選び”のスペシャリストだ。
岡本さんによれば、高齢期になっても「住み慣れた家で最期まで暮らしたい」と考える人が多い。それでもやがて介護が必要になると、「子どもたちに迷惑をかけたくない」という思いから、高齢者施設・住宅の住み替えも視野に入れざるをえないという人も出てくるという。
慣れ親しんだ地域でそのまま暮らし続けたいのか、交通の便など生活環境を優先したいのか、まだ元気なうちに“終のすみか”へ住み替えるのか……。施設に入って安心したいという人は、次のケースを参考に考えておこう。
C子さん(70)は、いずれは自宅を売却したお金で、介護付き有料老人ホーム・入居時自立型(自立型ホーム)に入居したいと考えている。
「ひとりで介護や看取りの段取りをつけるのは大変なので、元気なうちに、一度の引っ越しで済むように、今から“終のすみか”を探しています」(C子さん)
有料老人ホームに入居するには、入居時に一括で支払う「入居一時金」が必要となる。金額は0円から数億円まで、施設の設備や規模によって大きく異なる。
「自立型ホームへの入居一時金は、1,500万円〜数億円と高額です。入居一時金のほか、管理費、水道光熱費、食費などの費用が毎月かかります。それとは別に、日用品や通信費、被服代などの生活費と、介護が必要になったら介護費用がプラスされます」(岡本さん)
【「一度の住み替えで安心したい」の施設選びのチェックポイント 】
高齢者施設・住宅の選択プロセス
〈ステップ1〉保有資産の棚卸し
月々の収入(公的年金)、預貯金、生命保険、有価証券、不動産などを洗い出し、入居施設・住宅の金額の目安を決める。
〈ステップ2〉優先順位を決める
100%満足できる施設・住宅はないため、求める条件に優先順位をつける。
〈ステップ3〉情報を収集する
施設・住宅からパンフレットや重要事項説明書などを取り寄せて、施設・住宅の健全性などの詳細を確認する。
〈ステップ4〉候補を絞り込む
なるべく多く残す。10カ所以上が目安。
〈ステップ5〉見学(体験入居)する
自分の目で見て、○×で絞り込む。有料老人ホームの場合、見学したときに○が多かった施設に体験入居し、自分に合っているかどうか見極める。
〈最終確認〉
施設・住宅の健全性を考え、最終的に1つに絞り込む。有料老人ホームの場合は季節を変えてもう一度、体験入居したうえで決めたい。OKなら契約。NGなら少し時間をおきステップ2から再検討を。
持っている資産の棚卸しをする一方で、入居時にかかる費用を計算し、どれくらいなら負担できるのか実際に検討してみよう。
【有料老人ホーム入居でかかる費用】
■前払い金(入居一時金)
■月額費用(必須なもの)
・居住費(管理費、家賃、一時金方式ではかからないこともある)
・食費
・水道光熱費
■介護が必要になったら必要なもの
・介護保険1〜3割自己負担分
・オムツ代など
■個別に必要となるもの
・介護、医療費
・そのほかの生活費(日用品代、通信費、衣服費、交通費など)
「入居一時金2,500万円、月額費用は25万円の施設への入居を希望したとします。居住費は1年間で300万円かかります。入居する期間を仮に75歳から95歳までの20年を最長に、15年、10年とそれぞれ計算すると、施設に支払うお金は10年で5,500万円、15年で7,000万円、20年間で8,500万円となります。これに、入院費用、オムツ代、葬儀費用などの予備費として500万円を足したうえで、手持ちの資産を比較してみるとよいでしょう」(岡本さん)
C子さんの場合、月々の収入は遺族年金と老齢基礎年金が合計で14万円。自宅を売却するお金と夫の遺産を合わせて5,500万円ぐらいの資産が見込めることがわかった。
年金収入は1年間で168万円、10年間で1,680万円になり、資産を合わせて7,180万円、15年では8,020万円。10年間、15年間入居するプランでは、予備費と医療費を合わせても予算が確保できる見通しが立った。
ところが、20年と入居期間が長くなると、8,860万円となり、手持ちの資産では足りないことになる。
「80歳過ぎまで入居を先延ばしして、それまでは介護にお世話にならなくても元気で過ごしたいと思いました」(C子さん)
有料老人ホームの契約形態の多くは利用権方式で、入居時にまとまった額を支払うことで住まいやサービスを利用する権利を得る。契約は死亡をもって終了とするので、子どもが部屋を利用するといった相続の対象にはならない。内容を検討してから契約しよう。
「女性自身」2020年5月5日号 掲載