鶴見先生おすすめのアカフジツボ 画像を見る

海岸でよく目にするフジツボ。漁業関係者からは網や船に付着する迷惑な生物と思われていたり、世間一般でも、「フジツボで足を切ったら、膝の皿にフジツボが生えてしまった(実際にはあり得ないので心配は無用)」という都市伝説や、フジツボが密集した姿に恐怖を感じる、など良いイメージのない生き物だ。

 

しかし、そんな嫌われ者のフジツボにはなんと“高級食材”としての一面があるのだという。

 

「フジツボは貝と誤解されることが多いのですが、じつは甲殻類で、エビやカニの仲間です。ゆえに、その味もエビやカニに似ています。西日本では浜料理としてカメノテが食べられますが、このカメノテもフジツボ(蔓脚類)の一種。カメノテの仲間、ペルセベは、スペイン料理やポルトガル料理では欠かせない、人気の高級食材なんです」

 

そう語るのは、八戸学院地域連携研究センター『食べるフジツボ』研究プロジェクトの中心メンバーであり、八戸学院大学特任教授の鶴見浩一郎先生だ。

 

「青森などの寒流系の海に生息するミネフジツボは、殻を割って身を取り出し、黄金色に輝く卵巣にしゃぶりつくと、エビ・カニをさらに上品にしたような旨味が口中に広がります。とにかく卵巣が美味しいので、産卵の準備が始まる前、成熟が進んだ8-9月頃が最もお勧めです」

 

そんなに美味しいなら、さっそく近くの海へ取りに行きたいところだが……。

 

「フジツボに漁業権が設定されていることはほとんどないので、採っても問題はないはずですが、大々的にやると他魚種の密猟と誤解されトラブルになる可能性があるので注意が必要です。子供の遊び程度にとどめましょう」

 

採集する場合は、付近を管轄する漁協に確認してから採集するのがベターだろう。工具のスクレーパー(塗膜などの剥離用)とハンマーを持って岸壁へ行けば、消波ブロックなどに付着しているフジツボを取ることもできるそう。味は基本的にはどの種類のフジツボも大差ないというが、フジツボ自体のサイズや、採取する時期には注意が必要だという。

 

「磯で目にするフジツボは、タテジマフジツボやイワフジツボなど中・小型の種類が多く、大きくても直径2cmほど。相当頑張ってたくさん集めても、味見をするのがせいぜいで食べる部分がほとんどありません。

 

また、暖流系の種類は年間を通じて繁殖するので、春先以外は、産卵後の美味しくない個体を採ってしまう確率が3~4割くらいあります。その点、寒流系のミネフジツボは年1回の繁殖なので夏~秋には、確実に美味しい状態で食べられます」

 

地元の海岸で採って食べるなら、消波ブロックではなく、桟橋のロープなどに付着している大型種のアカフジツボが狙い目だそう。

 

「固まりごとゴソッと採れれば理想的です。軍手・手袋を必ず着用し、怪我や転倒に注意して下さい。殻に破損がなければ、濡れ新聞などに包んでトロ箱に入れ、乾燥を防げば海水がなくても数日生きています。

 

よく洗い、昆布出汁とみりんかお酒をちょっと足して茹でると美味。茹ですぎると身が縮んでしまうので、火が通る程度にさっと茹でるのがコツです」

 

安全性はどうなのだろうか――?

 

「もちろん、水のきれいな海岸で集めてください。石灰質の殻に重金属などの蓄積があったとの報告もありますが、毎日大量に食べ続けない限り問題になるレベルではありません。

 

また、基本的には貝毒を起こす貝類と共通の餌(餌のプランクトンの微量毒素を蓄積することが貝毒の原因)を食べていますが、甲殻類ですので代謝系が異なります。そのため、貝毒については、エビ・カニの貝毒を心配することがないのと同程度と考えていいでしょう。

 

ただ、他の水産物のように広範に食用にされた歴史があるものではないので、絶対にないとは言えない部分はあります」

 

令和になっても、まだまだ“珍味”は存在する。’21年はフジツボにチャレンジしてみては?

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