「あの買い物、失敗だった!」
こう後悔した経験がない人はいないだろう。ものを買うとき、「私たちには意思決定する際のクセがある」というのは、東京大学で行動経済学を研究する阿部誠先生だ。
「経済学では古くから、人はいつでも合理的に行動すると考えられていました。ですが、冒頭の衝動買いなど、合理的とはいえない行動も多いですよね。こうした人の心理や感情などを考え、現実的な分析を行うのが行動経済学です。これはビジネスの場では『マーケティング』と呼ばれ、商品を売るためなどに活用されています」(阿部先生・以下同)
私たちは自分で商品を選んでいるつもりだが“選ばされている”状況があるという。
「Tシャツを買うとき、2,000円のものと1,980円があったら、多くの方が1,980円を選ぶでしょう。キリのよい数字は高い印象を与えますし、1,000円台というインパクトも大きいからです。でも実際は、わずか20円の差です」
確かに、迷わず即決しそうだ。
「急いでいるときなどは特に、人は直感的に物事を判断します。買うつもりのなかった商品を買ってしまったり、割高なものを選んだり、判断を誤ることがあります。反対に、たとえばパソコンのような高価なものを買うときは、機能や使い勝手、価格など多方面から熟考しますよね。こうした熟考だと判断ミスは少ないでしょう」
でも「いつも熟考する」のはむずかしいのでは?
「そのとおりで、日常生活の多くは直感的な判断に頼っています。商品を売る側は、その直感的な判断をうまく誘導しようと、行動経済学やマーケティングをフル活用しているのです」
私たちは、まんまとその作戦に乗ってしまうというわけか。失敗を防ぐ手立てはないのだろうか。
「売る側がどうやって売ろうとしているのか、私たちの判断にはどんなクセがあるのかを、知ることが大切です。それらを知っていれば、同じような場に直面したとき、即決を避け、立ち止まって考えようと思うでしょう」
ムダ遣いはできる限り抑えたい。本当のお得を見極め、選択するためにどう考えればいいのか、身近な例をあげ教えてもらおう。
【ケース1】「全品100円」と「2割引き」どっちがお得?
コンビニに多い「おにぎり全品100円」はとてもお得に見える。
「『2割引き』などの割引率より、全品100円のほうがわかりやすいためお得に感じるといわれています。実際は、定価120円なら2割引きで96円ですから、全品100円より2割引きのほうがお得です。定価160円だと2割引きで128円、全品100円のほうがお得。計算するとわかります」
いちいち計算するのは面倒だ。
「それも、全品100円が支持される理由の1つです」
ちなみに高価な商品では、割引率のほうがお得感が大きいそう。