現在、都議会で都立病院の“民営化”が審議されているのはご存じだろうか。その先にあるのは、金持ち優先医療だーー。
「東京都のコロナ患者の約30%を受け入れてきた都立・公社病院が7月に廃止され、地方独立行政法人化(以下、独法化)されようとしています。いわば、民営化されるのです。そうなると、もうからない診療科は切り捨てられ、今後新たな感染症がはやっても、現在ほど患者を受け入れられなくなるでしょう」
そう警鐘を鳴らすのは、NPO法人医療制度研究会の副理事長で、『日本の医療崩壊をくい止める』(泉町書房)の著書もある本田宏さんだ。
現在、東京都には8つの都立病院と6つの公社病院がある。全国のコロナ確保病床でトップ11位まで、すべて都立・公社病院が占めるほどコロナ治療に貢献してきた。
東京都庁職員労働組合病院支部の書記長で、都立駒込病院の看護師としてコロナ対応にあたる大利英昭さんは次のように話す。
「独法化すると、過度に採算が重視されるため人件費も削減されていきます。その結果、看護師の離職率が高まってスキルが身につく前に辞めてしまうのです」
そのあしき前例が、公立・公的病院の独法化を全国に先駆けて進めてきた大阪だという。’07年には府立の5病院が、’14年には市立の4病院が独法化されたが……。
「その結果、徐々にベテラン看護師が減っていき、コロナ対応できる経験を持った看護師が少なくなりました。だからコロナ専門病院を作っても患者を受け入れられなかった。これが医療崩壊を招いた一因だと思われます」
大阪府のコロナ死亡者数は全国最多の4,002人で、100万人当たりの死者数も452.8人と全都道府県でワースト。全国平均の193.0人と比べても断トツで多くなっている(3月3日時点)。
大阪の病院事情に詳しい大阪医労連の副執行委員長・代喜伸吾さんは、「独法化によってもうけが優先になった」と、こう続ける。
「’07年に独法化された大阪国際がんセンター(旧・大阪府立成人病センター)は、府民を診るための病院から、海外からのVIP患者を迎えて医療提供する“医療ツーリズム”が主たる目的のひとつになってしまいました。府は、海外からのVIPを集めるために、もともと大阪城の近くにあった病院を、より大阪城がキレイに見える場所にわざわざ引っ越しさせた。税金を使って大阪城のすぐ隣にあった大阪府庁の駐車場を工事して、移転させたのです」
外国人VIPに人気のグレードの高い部屋は、1泊6万円もする。
「税金が投入されたのに、利益追求が最優先で、府民のための医療が後回しになっています」
こうした流れは、’10年に維新行政になってから加速したという。
「橋下徹知事(当時)が、二重行政を解消すると言って、すでに独法化していた4つの病院のうち、年間700件ものや小児救急を扱っていた住吉市民病院を’12年に閉鎖し、別の病院に役割を統合したんです。しかし、これがうまく機能しませんでした」
地域の分娩や小児医療を担っていた病院の閉鎖で、妊婦や子どもが医療にアクセスしづらくなった。
「住吉市民病院の跡地に民間病院を誘致する話も出ましたが、〈医師不足〉や〈収支が合わない〉などの理由で失敗に終わりました」
最近では、ここにふたたび公立病院を建てるという構想まで浮上しているというから本末転倒だ。