〈はじめまして「線虫くん」です〉
そんなフレーズとともに始まるCMを見たことがある人も多いだろう。これはHIROTSUバイオサイエンス社が行っている線虫によるがん検査「N-NOSE」のCM。たった1滴の尿から、がんが発する“におい”を線虫がかぎ分け、早期がんを見つけ出すことができるのだという。このように、がんの検査の方法や精度は日進月歩で進化している。
「がんが進行すれば、体への負担ばかりでなく、経済的負担も大きくなります。早期発見、早期治療が重要なのです」
こう語るのは、常磐病院(福島県)の医師・尾崎章彦さんだ。全国で約2千500の病院が加入する「公益社団法人全日本病院協会」では、登録病院からのデータをもとに、さまざまな病気で入院した場合にかかった費用の平均値を出している。(早見表の拡大版はこちら)がんについては、胃がん、大腸がん(結腸・直腸)、肺がん(気管支含む)、乳がんの、ステージごとに1回の入院にかかるお金が算出されている。
■一定額以上の医療費は高額療養費制度の対象に
2020年度の年間集計を見ると、大腸がん(直腸)の場合、がんが上皮細胞内にとどまっている「ステージ0」なら入院費用は約66万円だが、筋肉層にいたった「ステージ1」だと約145万円と、およそ79万円も高くなることがわかる。
リンパ節への転移はないが、筋肉層を越えてがんが浸潤している「ステージ2」は約158万円、リンパ節への転移のある「ステージ3」は約143万円と高額の医療費がかかる。一方で、がんが他臓器に転移した「ステージ4」は約90万円と、入院費用は大幅に減るのだ。胃がんなどでも同様の傾向がある。
「早期であれば体の負担の少ない内視鏡などでがんを取るなどするため、入院日数も短く済みます。ステージ2、ステージ3と進めば、体の負担の大きな手術や治療が増えてくるため、入院費用が高くなるのでしょう。しかしステージ4ともなると、手術ができないケースが多くなるため、入院費用も下がるようです。ただし、大腸がんなどは、ステージ4で肝臓などに転移していても、ケースによっては、抗がん剤などでがんを小さくしてから、手術で患部を取り除くコンバージョン手術で寛解する可能性があるので“ステージ4=手術できない”訳ではなく、希望もあります」(尾崎さん、以下「 」内は同)
これらの医療費の窓口負担は1〜3割で、一定の金額を超えると「高額療養費制度」を利用することになる。
「同月内の医療費が、限度額を超えると(一般的な収入の場合、9万円ほど)、超えた医療費が支給される制度です。ただ、月をまたいだ入院になると、月ごとに限度額を支払うことになり、家計にとって重たい負担になります」
また、がんの進行度を表すステージごとの生存率を見ても、がんの早期発見・早期治療のメリットが見えてくる。
「全国がんセンター協議会」の資料によると、50代女性の、ステージ4の胃がんの5年生存率は5%だが、ステージ3は56%、ステージ2は75.8%、ステージ1となると98.5%と、早期であればあるほど、如実に生存率が高くなっていくのだ。
「がんを患うと、入院、手術ばかりでなく、状況に応じてその後も抗がん剤治療や放射線治療、定期的な検診も必要です。がんが進行すればするほど、体にも家計にも負担は大きくなっていくのです」
就業に影響が及べば、収入減にもつながる。今一度、がんの予防、そして早期発見を心がけておきたいところだ。