腎臓に関する病気は男性がかかるものというイメージを抱いている人も少なくないが、中高年になると女性の患者が増加してくるという。
「病気のシグナルを『更年期だから』とか『気象病のせい』と思い込んで放置していると、症状がどんどん進行してしまうこともあるので注意が必要です」
そう警鐘を鳴らすのは、泌尿器科の専門医である「くぼたクリニック松戸五香」の窪田徹矢院長だ。
腎臓は背中側の腰より上に位置し、背骨をはさんで左右に一つずつある臓器。握りこぶしより少し大きく、空豆のような形状をしている。
「“血液の浄化槽”の役割をしているのが腎臓です。血液をろ過して老廃物や余分な塩分を尿として体外に排出するほか、体の中の水分量のバランスを保つなど、体内を常に最適な環境にしてくれているのです。同時に、ビタミンDを活性化し、カルシウムの吸収を促すことで骨を強くする働きもあります。女性は閉経後、女性ホルモンのエストロゲンの生成量が激減しますが、このエストロゲンには腎臓に集まった尿酸の排出を促す役割があります。そのため、閉経後は尿酸をきちんと排出できなくなることから、尿酸値の上昇を招くことがあるので注意が必要です」(窪田院長、以下同)
尿酸値が上がると、痛風や尿路結石といった体に激痛が走る病気にかかりやすくなることはよく知られている。このほか、腎臓の機能低下によりカルシウムの吸収が十分にできなくなると、骨粗しょう症にもなりやすくなる。更年期症状の治療の一つとして、ホルモン補充療法によりエストロゲンを補う人もいるが、腎臓の機能はいったん低下すると元に戻すことが極めて難しいという。
さらに、腎臓の病気は“サイレントキラー”といわれるように、自覚症状がないまま進行するケースが多いのが厄介だ。特に、40代以降は「慢性腎臓病」になるリスクが増大する。慢性腎臓病とは、腎臓の働きが低下した状態が3カ月以上にわたって続くことを指す。国内での患者数は約1千330万人、じつに8人に1人がかかっていると推計されている。患者の数は男性と女性でだいたい2対1といわれているが、窪田院長によると、女性の患者は40代後半から急激に増えてくるという。
「腎臓は体内に2つあるため、どちらか一方の状態が悪くなっても、もう一方がそれを補おうとします。この時点では目に見える大きな支障もないため、発見が遅れてしまうのです」
初期に自覚症状はほとんどなく、進行してくると、夜間頻尿、手足や顔のむくみ、かゆみ、貧血、倦怠感、立ちくらみやめまい、不眠などの症状が現れる。これら女性に多い不調に、腎臓病が隠れていることがあるのだ。
「更年期障害で見られる症状に似ていますが、体が発するシグナルを見落とさないようにするしかありません。症状が進んでやがて末期の状態になると、自力で血液をろ過できなくなる『腎不全』になり、人工透析を余儀なくされます。同時に、脳卒中や心筋梗塞など突然死にも直結する深刻な病気を発症するリスクが大きく増加してしまうのです」
肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などは腎臓の働きを衰えさせるが、生活習慣病やメタボなども慢性腎臓病につながるものであり注意が必要だという。
「自覚症状をチェックするほかに、定期的に健康診断を受診することも大切です。検査項目には腎臓の機能を測る『血清クレアチニン』という指標があり、ここの数字を見ます。クレアチニンとは老廃物のひとつで、基準値を超えていた場合は腎機能が低下している疑いがあります」
慢性腎臓病の発症・進行を避けるためには、腎臓に負担をかけないように生活習慣を改めることがカギとなる。
「腎臓にとって好ましくない生活習慣として、喫煙、過度な飲酒、運動不足のほか、睡眠不足も挙げられます。ほかに、カフェインを含む飲み物にも気をつけましょう。利尿作用があるため、就寝前に取ると睡眠の質が低下してしまうことがあるためです」
バランスのよい食事、ウオーキングなど適度な有酸素運動もきちんと心がけたい。
また、これから暑さが厳しくなるなか、頻尿に悩む人が水分摂取をためらってしまうこともあるが、熱中症予防の観点で水分補給は不可欠だ。
「夜間頻尿に悩んでいる人は、寝る2〜3時間前に飲む水の量をコップ1杯程度にしましょう。そのほかは日中の水分補給をしっかり行うようにすると、腎臓にもやさしく、深い眠りにつくことができます」
更年期になったら健康診断をきちんと受けて、腎臓が発するSOSを見逃すことのないよう気をつけたい。