車両の連結部分の近くに乗ることで、将棋倒しに巻き込まれるリスクを軽減できるという(写真:アフロ) 画像を見る

女性や子供も多く乗り合う日曜の夕刻、JR山手線の車両が騒然となった。

 

「山手線で刃物を振り回している男がいるーー」

 

新宿駅の駅員が、こう110番通報をしたのは6月25日午後4時ごろのこと。車内は叫び声や子供の泣き声でパニック状態になり、逃げ出そうといっせいに出入り口のドアに向かう乗客に押され、転倒する女性も見られたという。駆けつけた警察官は6号車付近の座席に座る50代の料理人の男性を発見。警視庁に任意同行した男性は、勤め先から持ち帰った包丁2本を不意に落としてしまったと話したそうだ。

 

しかしそれが周囲の乗客の不安をあおり、「刃物を振り回している男がいる」という情報にすり替わってパニックに発展したもよう。結果、転倒などで計17人もが負傷する事態となってしまったのだ。

 

「今回の騒動では幸い死者は出ませんでしたが、近年、電車内での刺傷事件は増加している印象です」

 

こう話すのは、防犯対策の専門家で女性初の防犯アドバイザーの京師美佳さん。’21年10月、都内を走行中の京王線の車内で、乗客を刃物で刺して車内に火をつける殺人未遂および放火事件が発生。被告の初公判が6月26日に行われたばかりだ。

 

’18年6月には、新横浜―小田原間を走る東海道新幹線で男が乗客3人を刃物で切りつけ、男性1人が殺害される事件が起きている。

 

「電車内で大きな事件が発生すると、それに影響を受けた模倣犯が発生しがちです。というのは、電車内は各駅停車の数分間から、新幹線などでは1時間以上も密室状態になります。犯人からすれば『犯行のチャンス』につながってしまうんです」(京師さん、以下同)

 

ふだん電車に乗るときは、読書やスマホなどに没頭してしまう人も多いと思われるが……。

 

「電車内で暴漢が突然襲ってきた場合、とっさに逃げる第一歩が遅れるのは命取りになりかねません。

 

特にラッシュアワーはすし詰めで身動きできない状態にも。自力では対応できませんし、将棋倒しに巻き込まれるリスクもあります」

 

群衆の中で起きた悲惨な事故としては、昨年10月に韓国で発生し、159人もの命が失われた梨泰院(イテウォン)“群衆雪崩事故”も記憶に新しい。

 

「パニック下では不正確な情報が飛び交う可能性も高く、いかに冷静でいられるかが大事。日ごろから周囲の状況確認と“いざ”への備えをしておくことが必要です」

 

京師さんに「電車でのパニック」から身を守るための心構えを聞いた。

 

「まずは電車に乗るためにホームで並ぶとき、列の先頭に立つのは避けましょう。先頭に並んでいた人が突き落とされて転落する被害に遭う事件も報告されています。そして、ホームや車内で不審な人物が近くにいた場合、すぐにその場を離れましょう。走行中の車内でも、速やかに車両を移るべきです」

 

そのためにも、電車内での“乗る位置”がカギになる。

 

「特に満員電車の場合、車両の中央あたりにいると身動きがとりにくく、付近で暴漢が暴れた場合も逃げにくくなってしまいます。優先席などがある車両の両端、つまり隣の車両との連結部分の近くにいることで、なにか発生した場合でも、騒ぎが起きている箇所と反対の方向に移動しやすくなります」

 

出入り口のドアから脱出したいところだが、走行中はもちろん停車した際でも、ドアが開くまでにはどうしてもタイムラグが生じてしまう。

 

また、連結部分の近くに立つことで、将棋倒しに巻き込まれるリスクも軽減できるという。

 

「群衆パニックで死者が出る場合は、倒れて踏みつぶされてしまうだけでなく、立ったままでも圧死するケースが発生します。壁側にいれば助かる場合も多いため、ここでも連結部分のドアや壁付近が安全と考えられます」

 

こうした位置確認は、「映画館や劇場の非常口確認と同じで、習慣にすべき」と京師さん。

 

「併せて、よく利用する路線では、車両内の非常通報装置や駅の緊急停止ボタンの設置場所を確認しておきましょう」

 

非常事態の場合は「ものの1分が5分以上に長く感じられる」と京師さんは話す。いつ直面してもおかしくないパニックの状況。そのときに「瞬時の冷静な判断」ができるように、日ごろの備えが不可欠なのだーー。

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