今年に入って、猛スピードで広がる致死性の強い感染症。聞けば、どこにでもある常在菌が悪さをするという。放置すれば、手や足がどんどん壊死する病気とは――。
「発症後の致死率が30%と、きわめて高い“人食いバクテリア”ともいわれる、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の感染が、今年に入って拡大しています。国立感染症研究所によると、1月から3月21日までの11週間の患者報告数が517件となり、過去最多となった昨年同時期に比べて約3倍に増加しているのです。さらに東京都の発表でも、’23年の都内患者報告数141件の半数を超える88人の感染者が、わずか2カ月半ほどの間に報告されていることから、急遽、医療マニュアルの改訂も進められているそうです」(医療ジャーナリスト)
命にも関わる人食いバクテリアについて、医療ガバナンス研究所の理事長で内科医の上昌広さんが解説する。
「主な原因菌となるのは、A群溶血性レンサ球菌といって、溶連菌の一種です。溶連菌といえば非常にポピュラーな病気で、子供がかかりやすく、咽頭炎を引き起こすことが特徴なんです。しかし大人が感染した場合、ごくまれに、筋肉などに菌が入り込み、劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発症する可能性があります。しかし、なぜ劇症化するのか、まだそのメカニズムは解明されていません」
■発症したら48時間以内に死亡のハイリスク
初期症状は、発熱や悪寒、頻脈、下痢、嘔吐など、インフルエンザ症状と似ているが、その後、急激に症状が悪化するという。
「はじめは四肢の先端部分から軽い痛みや赤い発疹がでてきます。そこから急激に病状が進行。手足が腫れ上がり、1時間に1cmというスピードで壊死していきます。壊死した部分から、さらに菌が全身に回り、わずか数時間で重篤化します」(以下、上さん)
そして肝臓や腎臓、肺など、多臓器不全状態になり、発症後、半日から48時間ほどで亡くなってしまうという。
「仮に一命を取り留めても、壊死してしまった部分は切断するしかありません。私自身も先日、左上腕が腫れて強い痛みを訴える患者の家族の相談に乗りました。救急外来を勧めましたが、後になってご家族に聞くと『あと数時間遅れたら命が危なかった』とのことでした。とにかく症状が出たら、一刻も早く医療機関を受診することが重要です」
もっとも気になるのが、’23年、東京都で感染者141人のうち42人が死亡したように、その致死率の高さだ。子供よりも30歳以上の大人のほうが死亡リスクが高いともいわれている。
1月に発表された国立感染症研究所のレポートでは、50歳未満の致死率が、’20年は12・8%、’21年は9.1%、’22年は12・1%、’23年1?6月は15・4%だったが、’23年7月以降は30・9%と急上昇している。
「同レポートでは、病原性や感染力が高まった株が、国内に流入している可能性を指摘しています。あくまでも単純計算ですが――。現在、昨年の患者報告数の3倍のペースで増加しているので、仮にこのペースが継続すれば、最悪、今年の患者数は約3千人となり、致死率3割で計算すると死亡者が1千人近くになります」
流行の要因として考えられるのは、コロナによる感染対策で、免疫力が低下していることだ。
「さらに、コロナ感染によっても免疫力が低下するというレポートもあります。アメリカの研究チームが、小児のRSウイルスの感染状況を調査したところ、コロナ既往の小児は、コロナ既往がない小児に比べ感染リスクが1.4倍と高かった。ワシントン大学でも、コロナによる感染リスクについて同様の見解を示す論文を発表しています」 うつらないための感染対策は傷口と飛沫に注意 誰もが感染対策を怠ってはならないのだが、感染経路は不明であることも多い。
ある研究調査では、傷口や皮膚からの接触感染が35%、喉や鼻などの粘膜からの飛沫感染が20%で、残りの約半数は感染経路が不明だという結果だった。
「飛沫感染対策として、咳エチケット、手洗いやうがいなどは怠らないようにしましょう。傷口から感染する可能性もあるので、足のけがなどには気をつけ、清潔にすること。 また、人食いバクテリアの原因菌である溶連菌に感染した場合も、しっかりと治療することが大事です。通常の感染症なら5日ほどの抗菌剤を処方しますが、溶連菌は体内に残りやすいのが特徴なので、10日ほど処方します。急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの合併症を起こすリスクがあるので、処方された抗菌剤服用を途中でやめず、しっかりと飲み切ってください」
コロナやインフルエンザの流行に続き、はしかや人食いバクテリアも急増している今、日々の感染対策が求められている。