医療機関の倒産が相次いでいます。東京商工リサーチによると、2026年1~9月に倒産した病院・診療所(クリニック)・歯科医院などの医療機関は59件。前年同期と比べて28.2%増の過去最多となりました。このペースだと倒産は年間70件を超え、年間最多を更新するとみられます。
倒産の理由には「後継者不足」をあげる声が多く、2025年同期の約3倍にのぼります。
背景には医師の高齢化があるのでしょう。厚生労働省によると、病床20床以上の「病院」に勤める医師の平均年齢は45.8歳。1986年は平均40歳でしたが、一貫して上昇が続いています。
より顕著なのは病床20床未満の「クリニック」で、医師の平均年齢は60.1歳。年代別だと60代が28.5%、70歳以上が23.8%を占めます(2025年12月)。
医師の人数は増えているものの、若い医師は設備の整った病院勤務を望むことが多いため、後継者が見つからず倒産や廃業に追い込まれるクリニックが多いのでしょう。
■私の知る医師はシステム整備に約300万円かかったと言います
こうした流れを加速させたのは、マイナ保険証を用いた「オンライン資格確認」の原則義務化だと思います。オンライン資格確認は、準備できた医療機関から2021年10月20日に本格運用が始まりましたが、わずか1年半後の2023年4月には原則義務となりました。性急なデジタル化についていけなかった高齢医師もいたでしょう。
加えて資金も問題でした。システム整備には国の補助金がありましたが、それでも、私の知る歯科医師は約300万円かかったと言います。「借金してまで」と踏み出せなかった医師もいたでしょう。
国はさらに、電子カルテの標準化など「医療DX」を推進しています。急激なデジタル化に医療機関が対応するには多大な労力と資金が必要ですが、それほどの余力がない高齢医師も多いのではないでしょうか。
医療機関の倒産は、その地域で暮らす人々にとって死活問題です。なかには「ひと山越えた隣町にしか病院はない」地域も。運転免許証を返納した高齢者などは病院までのアクセスに困ります。
いっぽうで、地方のクリニックを支える高齢医師らがあと10年、いや5年でも診療を続けられたら、その間にスマホでの遠隔診療やドローンによる医薬品配送などの技術が進み、医師の少ない地方にも医療体制が構築できる可能性も。それを待たずにいま廃業や倒産をしてしまうと、救えるはずの命を救えないことにもなりかねません。
国には、医療DXやデジタル化一辺倒ではなく、現役高齢医師にも配慮していただきたい。
なにより、地方の高齢者などが医療を受け続けられるような施策を講じていただきたい。たとえば、高齢者が使いやすい形で病院へのシャトルバスを整備するなどでもいいでしょう。誰もが安心して医療機関にアクセスできる環境を整備してほしいものです。
【PROFILE】
おぎわらひろこ
家計に優しく寄り添う経済ジャーナリスト。著書に『65歳からは、お金の心配をやめなさい』(PHP新書)、鎌田實氏との共著『お金が貯まる健康習慣』(主婦の友社)など多数。
