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韓国の検察が、捜査を本格化させています。加湿器の水に混ぜて使う殺菌剤に含まれていた有害物質が原因で多くの妊婦や乳幼児が肺を損傷し、多数の死傷者が出ているのです。被害者団体によると事件による死傷者は1500人を超えるとされており、韓国の史上最悪の消費者被害事件と報じられています。加湿器殺菌剤を製造販売した会社の一部は製品の有害性を認識していながらも製品の販売を続け、問題発覚後は証拠隠滅を図ったとされており、韓国国民の怒りを買っています。

今回の加湿器殺菌剤事件で最も怖いのは、被害の規模を正確に把握できていない点です。韓国で加湿器殺菌剤が最初に開発されたのは94年。それから11年末に加湿器殺菌剤の市販が中止されるまで、どれくらいの人々がその被害に遭ったのか全容把握がなされていません。事件の発覚以降5年にわたってこの問題を追ってきた韓国の有名環境保護団体の代表は「加湿器殺菌剤を使って被害を受けたのは29万人から最大227万人と推定されるものの、被害を自ら申告してきたのはたったの1528人。潜在的な被害者数の全体の1%にもならない」と問題提起しました。

事件の原因として問題になったのは、多国籍企業の「意図的なダブルスタンダード(二重基準)」です。事件の被害者は、今は英国企業であるオキシー社の製品を使用していましたが、同社はその製品をヨーロッパでは発売していません。ヨーロッパで求められる安全性テストをクリアできないのが理由でしたが、にもかかわらず韓国では別の基準を適用して堂々と販売していたのです。

今回の加湿器殺菌剤事件を見て、多くの韓国のメディアは「お茶の間のセウォル号」と報じています。セウォル号事件とは、2014年に修学旅行生などを乗せた韓国の大型旅客船「セウォル号」が転覆・沈没し、乗っていた476人中死者・行方不明者が304人となった事件です。韓国メディアの報道では、そのセウォル号事件と今回の加湿器殺菌剤事件の一連の推移が類似しているというのです。

セウォル号事件を引き起こした原因として挙げられているのは、①無理な貨物の積載、②海上交通管制センターのずさんな管理体制や海洋警察の消極的対応で救助時間を無駄にし、被害を拡大させた点、③乗客を捨てて逃げた船長と乗組員、④初動対応を間違った政府の4点です。同じ原因が加湿器殺菌剤事件にも推定されています。

まず加湿器殺菌剤の製造販売会社は製品の早期発売を急ぐあまり、吸入毒性実験を省略していました(①)。次に管理監督する政府は加湿器殺菌剤を医薬部外品ではなく工業製品に分類し、安全性のチェックを怠っていた。そして00年代半ばに多くの患者が原因不明の肺疾患で死亡していった際も適切な調査を行わず、多くの人命を救うタイミングを逃しています(②)。さらに11年時点で加湿器殺菌剤が肺疾患の原因と確認された後、製造販売会社は責任回避のためホームページに書き込まれた「副作用に関する投稿」を削除。ソウル大学などの研究者に賄賂を渡し、有利な実験報告書を作成してもらい法的責任を免れようとしました(③)。最後にこうした事態が発覚したにもかかわらず、政府は5年にわたり適切な調査を行いませんでした。そして今年1月になって重い腰を上げ、ようやく捜査チームを立ち上げるなど、後の祭り的対応をしているのです(④)。

今回失われた人命のほとんどは、妊婦と乳幼児。セウォル号事件で命を失った大半も高校生でした。5月は韓国でも「家庭の月」といわれ、「子供の日」と「父母の日」が続きます。しかし今年の家庭の月には、笑顔と笑い声はなかったのです。

 

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