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40人以上が亡くなった熊本地震。1週間以上がたった今も、余震におびえる日々を過ごしている被災者たち。だが、彼らを笑顔にする出来事もあった。本震発生の4月16日、赤ちゃんポストとして有名な熊本慈恵病院で4人の新生児が誕生したのだ。

 

本震のなか、帝王切開手術に臨んだのは、宮本愛さん(28)だった。愛さんは子宮口を胎盤が完全に塞いでしまう全前治胎盤。陣痛が始まると出血してしまうため帝王切開でしか対応できず、母子共にリスクの高い出産だという。

 

「妊娠9カ月で切迫早産と言われ、3月25日から入院していました。4月21日に帝王切開で手術をすることが決まっていましたが、それまで陣痛が起きないよう絶対安静。お腹のハリを抑える点滴も毎日24時間体制で続けていました。でも入院3日目に一度だけ点滴を外したことがあって。お風呂に入るために外したのですが、それが原因で出血してしまったんです。だからそれ以降は、怖くてお風呂にも入れませんでした」

 

そんな愛さんを大地震が襲った。みんなと駐車場へ避難することになったが、問題はこの点滴だった。

 

「点滴は電動式だったため、外へ避難するには外すしかなかったんです。私の場合は“お腹の張り=出血”。だから歩いているうちにお腹が張ってきたときは、すごく不安でした。ようやく揺れが治まったため、30分後に建物内へと戻ったのですが……」

 

異変を感じた彼女が確認したところ、もっとも恐れていた出血が起きていたという。このままでは母体が危ないと判断された愛さんはすぐストレッチャーで運ばれ緊急手術へ。だが、それは想像上に危険な判断だった。

 

「帝王切開に備えて自分の血を貯める“自己貯血”を毎週400mlずつ採取するのですが、手術日前日に採ったばかりで貧血になる危険性もありました。医師からは『いま手術するのには反対だ』という声も挙がっていました」

 

結局、医師たちのギリギリの決断で手術は行われることに。愛さんからLINEで報告を受けた夫の友樹さん(31)も、急きょ病院に駆け付けることになった。友樹さんは、手術室へ向かう妻の手を握りながら「頑張って」と言って送り出したという。愛さんが語る。

 

「その主人の言葉を聞いた瞬間、出産の最後の覚悟ができたような気がしました。手術中も先生たちの会話は聞こえていました。先生方が『地震なんかに負けないぞ!』と言っていたのを覚えています。それを聞いていると、なんだか自然に目から涙がボロボロ出てきて止まりませんでした……」

 

手術室に入ってから40分後の午前3時54分。第一子となる女の子「瑚々(ここ)ちゃん」が誕生した。母子共に命が救われた瞬間だった。夫の友樹さんはこう振り返る。

 

「看護師さんが赤ちゃんを抱いてやって来て『無事生まれました!』と言って見せてくれました。その瞬間、号泣でした。自分でもこれまで生きてきたなかで経験がないほど涙があふれて止まりませんでした。これまで大変なことばかり続いて。でも赤ちゃんの顔を見ていると、まるで僕らのためにやってきた天使だと思えてくるほど、すべてが救われた気持ちになりました」

 

産まれてきた赤ちゃんたちの健やかな成長もまた、復興への道のりなのだ。

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