「家訓は“誠意はものでしか伝えられない”」激安の人気青果店が“19人の大家族経営”でも揉めないワケ
画像を見る 「夫から優しい言葉をかけられたこと? ないよ(笑)。何にも言わないけど、でも優しい人だよ」(敬子さん・撮影:須藤明子)

 

■“家族仲よく”“誠意はものでしか伝えられない”が柿沼家のモットー

 

「気づいたらここで働いてました」

 

こう言って笑ったのは、敏治さんの次男で、前出の優助さんの次兄である健治さん(29)だ。

 

「『調理師専門学校のお金、出してあげるから、何年間か総菜作りをやらないか?』って感じで祖父母に言われまして……。気づいたら10年以上、ここにいます(苦笑)」

 

敬子さんは「この子が味を引き継いでくれてるから、私はもういつ抜けても大丈夫なのよ」と笑う。

 

佐千子さんも「健ちゃんは味の再現がしっかりできる。それはホント、上手」とうなずいた。いまや2人の先輩も認める期待の第3世代だ。

 

いっぽう、敏治さんの長男・真央さん(31)は両親と一緒に野菜を担当しながら、SNSを駆使して特売情報を発信するなど、店に大きく貢献している。そこで敏治さんの妻で、真央さん、健治さん、優助さん、それに陽治郎さん(15)と、4人の息子の母である美枝子さんにこんな質問をぶつけてみた。

 

「家業に縛られることなく、息子たちには好きなことをやってもらいたいと思ったことは?」

 

すると美枝子さんは笑顔で首を振って、こう続けた。

 

「真央は一時、運送会社に勤めていたことがあるんだけど、八百屋の手が足りなくて手伝ってもらってるうちに、欠かすことのできない存在になったのよね。ただ、一度は外の世界を経験しているから『そこは、もっとこうしたら?』『よそではこうやってるよ』と店の運営についても、ちゃんと意見をしてくれる。それは、とてもいいことだと思う。

 

そして、健治も優助も八百屋をやりながら、それぞれ飲食の仕事を、いまやっていて。そうやって外の世界を自分たちなりに吸収しているから、きっとうちの子たちは大丈夫(笑)」

 

末っ子の陽治郎さんは、まだ高校生。すぐ上の兄・優助さんは日ごろから、この年の離れた末弟に「軽々しく八百屋になるなよ」と話しているという。

 

「やるなら覚悟を決めてからにしろって言ってます。もちろん、やりがいもあるし、家族と一緒に働けるのはとても楽しいですけど、拘束時間、すごく長いんで(苦笑)」

 

すると、健治さんが口を挟んだ。

 

「いや、陽治郎もいずれは八百屋じゃない? だって『絶対やらない』って言ってたいとこも最近、レジ打ちしたり手伝ってるじゃん。柿沼家は皆、気づいたらここにいるってことになってるんだよ(笑)」

 

孫たちの会話を、敬子さんはニコニコとうれしそうに聞いていた。

 

「それでいいのよ、『家族仲よく』がうちのモットーなんだから」

 

すると、今度は佐千子さんが「うちは家族仲がよすぎ、気持ち悪いぐらい」と笑った。

 

「毎日、店で顔合わせてるのにさ、お正月とか連休とかも、皆で一緒に遊びに行くもんね(笑)。あと、柿沼家にはもう一つ、モットーというか家訓があって。それは『誠意はものでしか伝えられない』なんだけど……」

 

笑いをこらえるようにしながら、正道さんが補足した。

 

「僕らきょうだいが通った保育園の園長先生がね、うちの両親ら保護者に言ったんだって。

 

『いくら頭下げられたってね、誠意はものでしか伝わりませんよ』って。

 

大人になったいま、園長もすごいこと言ったもんだと思うけど(笑)。でも、間違ってないよね。それで、わが家の家訓にいただいたわけです」

 

でも、この考え方が家族の結束に一役、買っているのも事実だ。

 

「家族経営って甘えが出て、お金の面なんかでも、なあなあになりがちだけど、うちは違います。うちは父の方針で、たとえ子や孫であっても、給料はしっかり払うから。だから皆、お金が原因で『辞めたい』とはならないんだよ」

 

少子高齢化が進み、さまざまな分野で人材不足という課題を抱える日本。それは青果業界も同じだ。正道さんはこう続けた。

 

「働き手や後継者がいなくて、廃業に追い込まれる同業者、本当に増えてます。

 

その点、うちはこれだけの人数の家族が結束してるから、いまのところ、その心配はない。会長の誠意も給料できちんと伝わってるし(笑)、何より家訓どおり、家族皆仲よく店をもり立てていきたいって思ってますから」

 

物価高に人手不足……せちがらい令和を生き抜くヒントが、“まるで昭和”な青果店にあるのかもしれない。

 

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