■勝ち負けじゃないからウィンウィじゃなくて“ハッピーハッピー”に
「大家族の青果店に嫁いでくることに抵抗? それは全然なかった。私は結婚するまで設計の仕事をしていたんですが、100人ほどの社員全員が家族のように仲がいい会社に長く勤めていたので。むしろ、嫁ぎ先が核家族だと寂しいなと思っていたぐらいです」
正道さんの妻・かお里さんが話す。
「会社勤めをしていると、仕事と家族の用事って、どうしても相いれないところがありますが、ここではそれが一体なので。その点はすごく楽。子どものことで仕事を休まざるをえないとき、会社員だったら同僚に気を使いますけど、ここは職場の全員が子どもの祖父母、叔父、叔母、いとこですから」
敏治さんの妻・美枝子さんも同意見だ。
「家族が多いと意見がぶつかったり、昔は悔しい思いをしたこともありました(苦笑)。でも、こと子育てに関しては、皆が(子どもを)見てくれている安心感があった」
2人の“嫁”が抱いた安らぎ、それは彼女たちの“姑”である敬子さんも、かつて感じたものだ。
「だって、昔はお姑さんや家族、皆で子どもの面倒見るのが当たり前だったからね」
そう、子育てや働き方、女性の生き方といったシーンでも、ここでは“昭和の当たり前”が息づいている。かお里さんは「ですから」と力を込めた。
「ここではワンオペどころか、常に十数人の心強い味方が、育児に手を差し伸べてくれているんです」
祖父母や両親に子や孫も、嫁も舅も姑も、それに仕入れ先の業者も店の客たちも……。関わる皆がハッピーな笑顔の八百屋さんには、今日も威勢のいい声が響く。
「安いよ、安いよー!!」
(取材・文:仲本剛)
画像ページ >【写真あり】76年の歴史を誇る青果店。こちらは店舗を構えて間もないころ。左から道之助さん、創業者・ハヤさん、道之助さんの妹(他4枚)
