おそらくは、最も初期の中華そば。“そばつゆ”の味わいにも似た、醬油の旨みが広がるスープ。まとまりよく茹で揚げられた麺は、細身なのに“腰”が強く、つゆがとてもよく馴染む。だからついつい、ズズッとすすってしまう。ズズッ、ズズズッ…すすって味わうこの感じ、たぶんラーメン本来のおいしさ。ラーメン500円、そして人気の上五目、770円(写真)。ゆで玉子、ナルト、カマボコ、ほうれん草、しいたけ…おせちのお重を思わせる丁寧な盛りつけ。手当たり次第の“全部のせ”と違って、足並みが揃ってる。 昭和26年の創業以来、味はもちろん、店構えも昔のまま続く老舗の中の老舗が、笹塚の「福寿」。映画村のような古い木造のお店、脇に停められたスーパーカブ。見上げれば屋根からは煙突の煙。のれんをくぐり、ガラガラと格子戸を引いて店内に入ると、お風呂みたいに立ち込める湯気! 目の前にデンと構える大釜、グツグツ煮立った大鍋。そしてその下で静かに燃えている“二俵炊きの釜戸”。今の日本ではまずお目にかかれない光景だ。 先代が亡くなってから30年。ひとり店に立ち続ける、二代目の小林克也さん。レンゲのない、あつあつのどんぶりをひとつずつ、ていねいに客に出す。どんぶりの上のフチに親指をかけ、人さし指と中指で底のフチをしっかり押さえる。無駄のない所作、年季の入った仕事ぶり。どんぶりを持つだけで絵になる人だ。