ていねいに手間ひまかけて、バランス良く作られている「栄楽」のラーメン。チャーシューも、味が浮いてしまう最近のトロ肉系ではなく、内モモ肉を煮て焼いて作った昔ながらのチャーシュー。脂を食べさせるのではなく、スープの味が沁みるほどに、肉の味わいと香ばしさが口の中にひろがる。 「ラーメンの記事? うちは中華料理の店だから、ラーメンだけ取り上げるのはちょっと…」。最初はそう言っていた幸子さん。たしかにチャーハンやにら炒めなどを注文するお客さんもたくさんいる。僕もチャーハンをごちそうになったが、これまた絶品。上品な味付けが、アツアツの湯気でフワ~と広がった。ラーメンも舌をやけどするような熱さではないのに、不思議とお腹があったまってくるアツアツ加減。これからの季節、特においしくなる気がする。 あったかいのは料理だけではない。寒空の中、小雨が降り出したお昼時、理恵子さんがお店の傘をお客さんに渡していた。 「常連さんだからじゃない? 私もお母さんも知らないお客さんにはきっと無愛想だよ(笑)」、そう笑う理恵子さんだが、どうしてどうして。カラッと明るい笑顔で、お店を活気づけている。幸子さんとは実の母娘のよう(というか僕が勝手にそう思ってました)。 かつての昭和のサラリーマン文化と違って、食堂で晩酌する習慣が最近の若い人たちにはない。そんな“夜のお客さん”が減ってしまったのは寂しいと幸子さんは言う。たしかにランチでラーメンをすするだけでは、このお店の他の料理がもったいない。 「だけどうちのお客さんはいい人ばかりよ。この年になって毎日立ち続けるのは大変だけど…毎日来てくださるお客さんもいますからね。若い子たちもみんないい子。服装なんて関係ない。昔、竹の子族の時代にもね、竹の子ファッションのお店の子たちがすごいリーゼントでやってきたけど、礼儀正しい、いい子たちだったわよ…」